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時限爆弾を背負う君 #13

 夜の風が静かに吹き抜ける。

 瑞稀は遠くの街の灯りを見つめながら、ゆっくりと言葉を紡いだ。


「……私ね、生まれつき病気を持ってるの」


 その言葉が、胸の奥に重く落ちた。


「……病気?」


「うん。名前を言っても、たぶん君は知らないと思うけど」


 瑞稀は笑おうとする。でも、上手く笑えていなかった。


「まあ、一言で言えば、治らない病気」


「……」


「今はまだ普通に生活できるけど、もうすぐもっと悪くなるんだって」


 言葉の端々にある「覚悟」のようなものが、逆に痛かった。

 そんなこと、まだ高校生の俺には到底受け止めきれない。


「……治療は?」


「できる範囲のことはしてるよ。痛み止めとか。でも、完治はしない」


 淡々とした言い方だった。

 まるで、もう何度も同じ話を繰り返してきたかのように。


「それに……私、あとそんなに長くないんだ」


 その瞬間、時間が止まった気がした。


「……長くないって、どういうことだよ」


「文字通りの意味だよ」


 瑞稀は、夜空を見上げる。


「今はまだ元気。でも、あとどれくらいかは、もう分かってる」


「……」


「だから、病院にいるんだよ。本当なら、もっと前から入院してたほうがいいんだけど……最後くらい、普通に学校に通いたいから」


 俺は、何かを言おうとした。

 でも、言葉が出てこなかった。


 こんな話を聞いて、どう反応すればいい?

 どう返せばいい?


「ねえ」


 瑞稀が俺のほうを向く。


「…春樹はどう思う? 私がもうすぐいなくなるって知って……」


 答えられるわけがなかった。


 「そんなの嘘だ」と否定するのは簡単だった。

 「そんなこと言うな」と言い聞かせるのも簡単だった。


 でも——


 彼女は、そうやって誤魔化せるほど、軽い気持ちで言っているわけじゃない。


 だから、俺は——


「……わかんねぇよ」


 それだけを、なんとか絞り出した。


「そう、だよね」


 瑞稀はふっと微笑む。


「ごめんね、重い話して。でも………春樹なら話せると思ったから…」


「……」


「ただ、最後の時間を、ちゃんと過ごしたかっただけなの」


 瑞稀の瞳は、どこまでも静かで、どこまでも深かった。



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