怪しい君 #12
ショッピングモールを出たあと、俺たちは近くの公園に寄った。
街灯の明かりが淡く揺れる中、二人で並んでベンチに座る。
夜の風は少し涼しく、昼間の熱気を洗い流していくようだった。
「楽しかったね。今日」
瑞稀がふっと笑う。
「そうだね。楽しかった。」
「でも、ちょっと歩き疲れたかも」
「そりゃ、あれだけ店を回ればね」
「春樹だって、文句言わずに付き合ってくれたじゃん」
「暇だったし」
俺が肩をすくめると、瑞稀はくすくすと笑った。
しばらく、何も話さずに夜の空気を味わう。
どこか遠くで祭り囃子の音が聞こえた。
「ねえ」
「ん?」
「もしさ……もし、私がいなくなったら、君はどうする?」
不意に、瑞稀が静かな声で言った。
「……は?」
何を言っているのか、一瞬理解できなかった。
「もし、私が突然いなくなったら、春樹くんはどう思うのかなって」
「……お前、何言ってんだよ」
冗談にしては、妙に重い空気が漂う。
「いや、別に深い意味はないよ。ただ……」
瑞稀は夜空を見上げながら、ぽつりと続ける。
「私ね、今すごく楽しいんだ」
「……」
「病院にいると、どうしても考えちゃうことがたくさんあって……でも、春樹と一緒にいると、そういうのを忘れられる」
静かに語る瑞稀の横顔は、どこか儚げだった。
「だから、もしこの時間がずっと続けばいいなって……そんなことを考えちゃうんだ」
俺は、何かを言おうとした。
けれど、言葉が見つからない。
「……バカみたいだよね、こんなこと言うの」
「……いや」
俺はゆっくりと口を開く。
「別に、バカみたいじゃないよ」
「……そう?」
「……うん。」
それ以上、何を言えばいいのかわからなかった。
でも、瑞稀の言葉の奥にあるものを、俺は少しだけ感じ取った気がする。
冷たい夜の風が、そっと吹き抜けていった。




