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10.

~*~*~


「まぁ、たいへんだったわね。でも、さすがモモちゃんね。カリンちゃんの力の使い方をわかっているだなんて」


 マリが花梨の髪をとかしながら、のほほんと言うから、そこからたいへんさなど微塵も感じられない。やはり、マリも氏人の一人だった。


 あの結界から抜け出せたのは、どうやら花梨の力によるものだったようだ。結界の境目を切り裂いた、とのこと。


 これもあとから桃子から聞いた話だ。そもそも、花梨本人は、そうやって切り裂いたつもりなど一切ないのだから。


「それよりもさすがユウくんね。愛するお姫様のピンチに駆けつけるなんて、王子様だわ」

「おまえも年甲斐もなく、よくそんな恥ずかしいことを口にできるな」

「やだぁ。お姫様も王子様も、いくつになっても憧れよね。はい、できました」


 山のほうに出かけることになった。桃子が海か山かで悩んだ結果、湖もある山を希望したからだ。


 その話はいつの間にかマリにも伝わり「日焼けしないように」「髪もいたわりなさいと」火宮一家が出かける前にやってきた。もちろんそれは花梨の髪やら肌の手入れのため。


「帰ってきたら、またアタシのほうで、ケアしてあげるわ」

「ありがとうございます、マリさん」

「いいのよ~。だって、ユウくんの頼みだもの。じゃ、楽しんできてね」


 マリは颯爽と帰っていく。


「勇悟さん……ありがとうございます。私、こういうことに疎いので」


 隣に座る勇悟に向かって礼を口にした。


「いや? おまえの肌や髪が傷むと、あいつがうるさいんだ。自己防衛の一種だ」


 そうぶっきらぼうに答えた勇悟だが、ほんのりと耳の下が赤くなっていた。


 七菜香が妖魔に取り憑かれてから一週間が経った。夏休みも後半に突入し、桃子の宿題の終わりが見え、勇悟も当主としての仕事やら立ち上げた会社の雑務やらの一区切りつけたこの時期に、家族揃っての旅行となった。


 少し標高の高いところに、火宮家の別荘があるらしい。つまり、避暑地。


「こちらに来てから、本当に勇悟さんにはご迷惑をおかけしてばかりで」


 いくら妖魔に憑かれていた状態とはいえ、七菜香の告白は衝撃的だった。

 また、勇悟が星光地区へと向かったのは、仕事のついでに花梨の産みの母親についてを調べるためだったらしい。


 それは結界を無効化できる能力について確認するためでもある。そういった力は星光地区の氏人から生まれる力のようだ。


 しかし、わざわざ星光地区まで足を運んだ勇悟だが、大した成果は得られなかった。


 ――おまえの母親については、謎の部分が多い。園内を問い詰めても、金に釣られたというようなことしか言わないからな。


 どうやら花梨の母親は、大金と共に園内家へやってきたとのこと。そのとき父親は、当時付き合っていた七菜香の母親を捨て、金のために花梨の母親を選んだ。

 しかし所詮は金に釣られて選んだ女。身ごもれば女としての価値を失ったかのように見え、興味すら失われていく。

 そして七菜香の母親とよりを戻す。


 そこまで、勇悟は突き止めてくれた。彼はその事実を花梨に話すのをためらっていたが、花梨が包み隠さず教えてくれとお願いした。


 夫婦となった二人の間に、隠し事は作りたくない。


 そしてその話を聞いた花梨だが、事実を事実と受け止めただけで、なんの感情も湧かなかった。過ぎたことを悔やんでも、過去が変わるわけでもない。


 だったら、これからの未来を作っていくべきだろう。

 結婚式にあの両親を呼ぶのは、躊躇いがある。それは今後、勇悟と相談すべき内容だ。


「俺と結婚したことで、これからおまえにも辛い思いをさせるかもしれない……」

「はい。覚悟はできております。ですが、あの家で十九年も耐えたのです。あれ以上、辛いことなどありません」

「ふっふふ……だから、おまえは興味深い……」

「ユウゴ~お母様~まだですか~?」


 待ちきれない桃子が、バンと勢いよく扉を開けて部屋に入ってきた。


「ちょっと、ユウゴ。なに、どさくさに紛れてお母様にチューしてるわけ?」

「してない」

「してません!」


 二人向かい合って笑っただけなのに、桃子の角度からはそう見えたようだ。


「ユズ。行きなさい。あの二人の仲を引き裂くの。お母様の膝の上はユズのものよ」

「あいあいあいあい~」


 返事をした柚流が走ってきて、ちょこんと花梨の膝の上に座った。


「柚流。おまえもそろそろ、おむつを外そうな?」


 勇悟の言葉を理解しているのか、柚流が「いやいやいや~」と首を大きく振った。

 その様子を見た三人は、声を上げて笑った。


【完】


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