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第8話 変わらぬもの

 

 迎えの馬車が来るまで、街の市場で時間を過ごすことにした。

 この国の街の市場には、昔何度か警備の仕事で何度か訪れたことがあった。今も昔と変わらず活気付いていた。

 以前の私がよく勤務で街に来た時によく訪れた店に行くことにした。そこはこの街でとても有名なパン屋だった。

 ここのパン屋のベーコンサラダパンが格別に美味しいのよね。

 久しぶりに食べれる嬉しさのあまり、商品を目の前にして笑みが溢れてしまった。

「おやお嬢さん、そんなにお腹が空いているのかい?」

 パンに気を取られている隙に背後から突如声を掛けられて、「うわっ」とつい声を出してしまった。

 振り向くとそこには、優しそうにこちらの顔を覗きながらニコニコとしているこの店の店主である、ロキシーおじさんがいたのだ。

「あ、すみません。ついあまりにもこのパンが美味しそうでして」

「そうかい。うちの店で一番売れていて、私の一番の自信作なんだ」

 と、嬉しそうに話し始めた。

 ルライン家の令嬢であることはバレないように変装はしているが、店主にもなんとかバレずに済んでいるみたいで良かった。

 パンを両手に抱えて満足した私は店を出た。すると私の名前を呼ぶ声がした。

「エステラ?」

 声がする方に振り返ると、そこにはアルデウスの姿が見えた。

「で…アルデウス。ここで何をしているのですか」

「君こそここで何をしていたんだ」

 友人に会った時みたいに、ニコニコしながら私に近づきながら私の手元を除いた。

「パンを買いに来たのか?ここのパン屋は美味しいと噂は聞いていたが、まだ一度も食べたことがなかったな」

「あら、そうなんですか?でしたら、こちらおひとつどうぞ」

 私は今買ったばかりのパンを殿下に差し出した。

「いやいや、それは君が食べたくて買ったものだろう」

「沢山買ったので、おひとつならいいですよ」

 なら、と言いながら殿下はエステラからパンを受け取った。

「殿下は街に何か用事があったのですか」

「ああ、最近我がご主人さんが甘いものに目がないみたいで、お気に召すような物がないか買いに来ていたんだよ。おつかいだね」

「アルデウスが」

「ああ、そうなんだよ。一度我が家で出されたケーキを食べてから、ずっと甘い物ばかり食べていてね。それで何か他にも何か美味しいものがないか、探しに来たんだ。うーーん。まあ実際は、この街の様子を見に来たかったってのが、本心だけど」

 どこか寂しげな表情を浮かべていた。

「殿下はあまり街に出ることもなかったですからね」

「そうだね。だから今こうしてアルデウスの姿で街を自由に歩いたり、君とも一緒に外で会話が出来ることが何よりも嬉しいんだ」

「でも今は私も姿を隠している状態ですけどね」

「そうだったね」

 二人でクスクスと笑いながら会話をしていた。

「それでは迎えの馬車が来たようなので、私はこれで失礼いたしますね」

「ああ、気をつけて」

 殿下に手を振られ、別れの挨拶をしてその場を離れようとしてけれど、ふとあることに気づき殿下の方に振り返った。

「あ、ひとつお伝えし忘れていたことがございます。街の端にあります、赤い屋根の小さなお菓子屋さんがあるのですが、そちらのクッキーが凄く絶品ですので、お土産によかったら!」

 殿下は少しキョトンとした表情を浮かべたが、すぐにいつもの笑顔に戻った。

「ああ、ありがとう!お土産に買って帰ってみるね」

 そう殿下との会話が終わり、私は馬車に乗り屋敷へと戻った。


 ーーーーー


 屋敷に戻った私は、すぐ部屋に戻り今日聞いたラランカからの話を思い返していた。

 メルビン伯爵家は、やはりプリアンド子爵家に弱みを握られている状態。親が勝手に起こした過ちを、我が子を使って償おうとするなんて。それも間違った方法で。

 とてもじゃないけど腹が立つ。

 しかし、今すぐにラランカを救い出しては、あちらがどんな行動をしてくるのか、もしくはこちらが不利になりかねない。

 なぜプリアンド家はメルビン家を救ったのか、何が目的なのか。慎重に調べるべきね。


 しばらくして、部屋の扉からノックの音がした。「トン・トト・トン」

 このリズムはユリーナだ。

「どうぞ」

 そう伝えると、扉からユリーナがニコニコしながら入ってきた。そして周りをきょろきょろし始めた。

「今は誰もいないよ」

 誰もいないことを知ってユリーナは笑顔になった。

 さっきのノックの音は、私とユリーナで決めた合図だ。扉越しにでも互いが分かるようにした。

「ねえエステラ、今日エステラが買ってきてくれたパンなんだけど。あれ!とても美味しかったわ!初めて食べるものだったんだけど、具材ももちろんだけど、パンのあの香ばしさがとても堪らなかったわ」

 屋敷に戻ってすぐに、侍女に買ってきたパンをユリーナにもお裾分けするように渡していた。好みが合うか不安だったけど、本人がすごく喜んでくれていて良かった。

「どこのシェフが作ったパンなのかしら」

「はは、ユリーナ、それは都市の街にある小さなパン屋さんのものなのよ」

「あら、そうなの?こんなにも美味しいから、どこかのシェフの方が作ったのかと勘違いしてしまったわ。でもそれほどの腕の持ち主のようね」

「ええそうね、今度また街に出ることがあったら、別のパンも買ってきてあげるわ」

「本当に!ふふ、とても楽しみにしているわ」


8話まで読んでいただきありがとうございます!

ベーコンサラダパン、私も食べてみたいです…

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