第2話 再会(私たちが再び会う日まで)
侍女に応接室に案内されてからしばらくして、バンッ!という音をたてながら、勢いよく応接室の扉が開いた。そこにはストレートな黒髪を後ろに束ね、水色の瞳をしていている、エステラ《わたし》が息を切らしながら立っていた。
薄ピンク色のふわふわした髪質で、つい目がいってしまうような綺麗な緑色の瞳で、紳士たちを一目で虜にしてしまう顔立ちのユリーナとは違い、騎士団一家の育ちなのもあって、男勝りなのが抜けない顔をしている私の顔を見ると、なんとも居た堪れない気分ね。
息を切らしながら入ってきた彼女は、私たちの顔をじっと見つめていた。何かを言いたいのかは分かっていたから、私から声をかけた。
「ユリーナ?」
そう聞くと、彼女は涙目になりながら私に抱きついてきた。
「エステラなのね…私のことをユリーナと呼んでくれた」
目を覚まして、いつもと違う場所でしかも姿が自分ではなく、エステラになってたらそりゃ不安だっただろうに。
「来るのが遅くなってごめんね。ひとりで不安だったでしょ」
「うん。何が起きているのかが全然わからなくて、不安だった。でもエステラが来てくれると信じてたわ」
そう言うと、ユリーナの目から涙が引いた。
「本当に君は…ユリーナなのか」
私たちの様子を黙って見ていると思っていたら、アルデウスが突如話に入ってきた。
「あ、クリス様!すみません、挨拶もせず取り乱したところをお見せしてしまい」
「…」
自分のことを殿下だと思っているユリーナに対して本当のことを言うのを戸惑っているのだろう。
「ユリーナ、殿下のことなんだけど…今目の前にいるのは、殿下じゃなくて、アルデウスなの。私たちと同じように入れ替わってしまっていて」
ユリーナは目をまん丸くして凄く驚いた表情をした。
「あなたアルデウスなの?」
驚いた顔のまま、ユリーナはアルデウスに問いかけた。
「…ああ、そうです。ユリーナ嬢…」
ユリーナと目を合わせることなく、そう答えるアルデウスの表情はとても暗い顔をしていた。ユリーナが無事だったことに安堵していて忘れてしまっていたが、一つ確かめないといけないことがあったことを思い出した。
「ユリーナ、聞きたいことがあるんだけど。入れ替わる前のことは覚えている?」
「目を覚ます前に見ていた光景とか…」
聞いたのは私だが、凄く不安で心臓がドキドキしている。もしユリーナも私が処刑された時の記憶があるのなら、なんてユリーナに言えばいいのか。ユリーナは無実だと主張していてくれていたが、私が処刑される光景を見ていた彼女に私は…
少し考える表情をしてからユリーナは答えた。
「うーん。あまり覚えていないのよね。いつも通り寝る前に少し読書をしてから、眠りについた気がするのよね」
よかった。巻き戻る前の記憶がないことを知って、私は再び安堵した。それと同時に、アルデウスも安堵の表情をしていた。
恐らくユリーナは巻き戻りをしていなのね。
「ユリーナ、殿下とは連絡は取ったかしら」
「クリス様とは、連絡は取っていないわ。今日は目を覚ましてからエステラたちが来るまで、ずっと部屋に閉じこもっていたわ」
「わかった。殿下ももしかしたらアルデウスの姿になって、戸惑っているに違いないわ。一刻も早く殿下にも会いに行かなければ」
私はすぐ殿下がいるであろうエルディ家に向かおうとしたが、
「エステラ、今から向かうには外はもう暗い」
居心地が悪そうにしていたアルデウスが口を開いたと思ったら、私を引き止めてきた。でも確かにいつの間にか、もう外は夕暮れ時を過ぎて空は暗くなり始めていた。
「そうね、エステラ。今から向かうには夜道は危険すぎるわ。今日はここに泊まって、明日朝すぐに向かいましょ」
戸惑った顔をしていた私にユリーナは追加で声を掛けてきた。
「大丈夫よ。クリス様は賢い方よ。この状況もすぐ理解して、何か行動を取っていると思うわ」
そうね。私は心配しすぎていたのね。ユリーナの言葉で少し落ちを戻した。
ここは私の家でもあるから、間取りは把握している。ユリーナに頼んで私たちが泊まれるように部屋割りや、事情を話して貰って今日はローリンス家に泊まることになった。
幸いユリーナは入れ替わっていることを、侍女のスージーに一度確認のために話したぐらいで他の人には話していないらしい。そのスージーも特に信じることはなかったみたい。アルデウスはもちろん誰にも話していないと。
ーーー
その夜、私たちはそれぞれの部屋で夜を過ごすことになった。周りに変に思われないように、ユリーナにはエステラの部屋に行ってもらった。私とアルデウスは客室に案内された。
明日エルディ家に向かったとしても、殿下であるとは限らないし、もし殿下も巻き戻っていたらと考えてしまい、不安が募っていく。
ーーー
部屋に太陽の日差しが差し込み始めていた。太陽の日差しで目覚めた私は、部屋の前に誰か来たのがすぐ分かった。と同時に扉を叩く音がした。
「なんでしょうか」
「エステラ様、お休みのところ申し訳ございません。お嬢様からエステラ様を呼んで来て欲しいと、お申し付けがございました。応接室にてお待ちですので、お越しいただけますでしょうか」
「分かりました。すぐに向かうと伝えて下さい」
「かしこまりました」
そう伝えると、扉の前から離れていく音が聞こえた。
何かしら。これからエルディ家に向かうための準備かしら。それにしても何か、急いでる様子だった。一先ず身支度してすぐに向かおう。
「お待たせしました」
応接室の前に着き、扉を開くと私の目にアルデウスの姿が見えた。
「え…」
どういうこと?アルデウスの姿が見えたと思ったら、殿下の姿も見える。そんな戸惑っている私の姿を見てユリーナが声を掛けてきた。
「エステラ、クリス様が先程いらしたの」
殿下がローリンス家にいることが不思議で仕方がないけれど、それよりもユリーナがアルデウスの姿の人に対して、『クリス様』と呼んでいたからには、目の前にいるのはアルデウスの姿をした、殿下で間違えないようだ。
「エステラ、事情は少し二人から聞いたよ。よかったらこっちに座って皆んなで、この状況について話し合おう」
優しく落ち着いた声で、殿下が私に話しかけてきた。私は拒みもせず、3人の元に歩み寄りユリーナの隣に座った。
こんにちは。公しょうぶん(ハムしょうぶん)です。
2話まで読んでいただきありがとうございます!
まだまだ物語冒頭部分が続きます。長々となってしまいますが、この後も読んでいただけたら嬉しいです。