お絵描きタイム
「――ねー、描けた?」
わたしの隣で絵を描いていた子が尋ねてきた。今日が初対面なのに随分人懐っこい子だった。
「んー、今仕上げ。ミヤちゃんは描けたん?」
「うん、ほら! パンダ!」
「おーうまいじゃん」
美術部が与えたテーマは『好きな動物』だった。
画像や資料などは見ず、記憶で描くというワークだ。
「のんちゃんは何描いてるの?」
よし、できた! 我ながらまあまあ描けてるんじゃない?
「これ! どう⁉︎」
「へー、うさぎ? かわいい、ね……?」
いや、全然違うし! なんで半疑問形?
「のんち、画伯じゃーん! これはネコでしょ?」
ミヤちゃんとのやり取りに気付いたササがわたしの絵を覗き込み、にやにやしながら言う。
ちがうよっ! 惜しいけど
「カラカルっ! 耳がとんがってるじゃん」
「いや、なにそれ? ねこの種類?」
猫科の動物だから猫の一種かもしれないけど、猫の中にある種類のひとつ、ではない。
「これ?」
騒ぎを聞きつけたカヨが画像を検索してわたしたちに見せた。
「そー、それ。かわいくない?」
「ネコじゃん!」
「なんで素直にネコにしないの? マニアックなの出して攻めたかったの?」
「あー、このネコ耳とんがってる! これ描こうとしてうさぎみたいになったの?」
「ねぇ? だったら最初からネコ描いとけばよかったのにねぇ?」
カヨにササにミヤちゃんまで混ざってすごくいろいろ言われた。
「す、好きな動物描けってお題じゃん! だから好きなの描いたのに、こんないろいろ言われる⁉︎」
「これ好きならネコも好きなんじゃないの? じゃあネコで良くない?」
「ネコも好きだけどさー。カラカルのすごいかわいい動画視て好きになったんだもん! 足も速いんだよ?」
「いや知らんし」
「くっ、じゃあカヨやササはなに描いたのよっ」
ルカの描いた絵をのぞこうとしたら身体で覆うようにして隠された。
全員、ピンと来たようだ。
終電が発車しようとする音を聴きながら、長い階段を駆け上っているかのような必死で悲壮な表情のルカを、いつの間にか加わっていた男の子を加えた四人がかりで絵から引きはがす。
男の子は確かケイくん。この子も元気で比較的誰とでも衒いなく交流を持ちたがるタイプだ。
「ひっ......⁉︎」
「え……なに……?」
「呪われし……もの?」
カヨを引き剥がして現れた画用紙には、黒を基調としたぐしゃぐしゃが質量さえ感じさせる存在感でたたずんでいた。輪郭部分はとげとげ。真ん中に描かれた瞳だけが妖しく光っている。
「……黒ネコ、なんだけど……」
「……こわぁ」
「そんなこと言っちゃダメ!」
思わず漏れたらしいケイくんの感想に、顰めていながらも良く通る声で注意するミヤちゃん。注意されたケイくん以上に小さく見えるルカ。
「なんだよー、カヨぴもネコかー。ネコ人気じゃーん」
「わたしのはネコじゃなくてカラカルね!」
評価などこだわる気はないが,間違いは是正しないとね。
「じゃーさ、ササはなに描いたのよ」
俯きながらも強いまなざしで反撃の期をつくろうとするルカ。
「あ、そーだよ! ササも見せなよ!」
わたしもそれには乗らせてもらう。
「え、やだ、恥ずかしい……」
なにを急にしおらしくしてるの!
「観念しなよ! カヨ、取って!」
ササを抑え込み画板に伏せて置かれていた画用紙を取るよう指示を出す。抑え込みにはケイくんとミヤちゃんもぎゃーぎゃー笑いながら加わっている。
ほんの少しだけ、違和感があった。




