マレの提案
どこにでもいるたいして忙しくない学生であるわたしの具体性のない良い加減な提案に、道を極めようとする者特有の忙しさとシビアさの中で生きているマレが、意外にも好意的な反応を示してくれた。
「のん、太鼓やってるんだよね? サンバの。サンバの動画たまたま観たんだけど、楽器の人たちも格好良いね」
たまたま? サンバを? 観ることなんてある? まあ無くはないのかな?
ダンサーであるマレが、打楽器隊に注目してくれたのは嬉しい。
「まだ始めたばっかで全然うまくできないんだけどね。動画で観たのって本場の? 日本の? パレード? ステージ? ソロの演奏とか?」
なんだか嬉しくて,ついつい観ていたドラマからも目を離し矢継ぎ早に質問すると,「すごい訊くじゃん」とマレは笑った。
「あれはパレードのシーンだったのかな? 外なのは間違いない。短い時間観ただけだから、はっきりしたことはわからないけど、移動してたかなぁ。だからパレードだと思う。日本のやつだったよ」少し思い出すようにしながらマレは答えた。
「パレードだと楽器たくさん居るし、移動してフレームアウトしちゃうからわからないと思うけど、大太鼓の中でテクニカルな叩き方する人が居るんだよ。わたしそのパートやりたいの。難しいんだぁ」
「ふふ、のんも楽しそーじゃん。のんの演奏で踊ってみるってのも良いかも」
「うちのイベントに参加する? ゲスト参加枠みたいな制度あったと思う」
「それも良いね。でもジャンルが全然違うからさすがに練習必要じゃない?」
まあそれは確かにそうだ。
ゲスト参加枠はエントリーは自由だが、都度イベントの構成を任された担当がイベントの内容やエントリー者の希望、属性や能力を鑑み、可否を判断する。
「わたしが日本にいるうちに練習して仕上げて出られるイベントってあるのかな? それよりも、わたしの動画でさ、太鼓、それも南米の民族楽器の根源的な音でバレエを踊るって、なんだか楽しそうじゃない?」
「えー、マレのチャンネルで? かなり育ってなかったっけ? 下手な演奏したら炎上する―」
マレとは希薄な関係性だったとはいえ,仲が悪かったわけではない。日本にいた頃はコンテストに応援にも行っている。
マレが動画の配信をやっていたことは知っていたし,いくつかは観たこともある。
登録者数は素人としてはかなりの数だったはずだが、学生としては国内有数のバレエダンサーだ。配信者の立場なら,むしろ学生はプロ以上に引きが強いこともあろう。
膨大なフォロワーを抱えて視聴数を誇っている稀のチャンネルや動画に,「まあ不思議はないか」とどこか他人事のように思っていたものだった。
「大丈夫だよー。わたし今まで顔出さないでやってたけど、今後出そうと思っててさ。双子の見た目も活かせそうだよねー。のんもアカウント作る?」
ササやルカと、そんな話もしていたが、実現はしていない。
「んー、クラスの子たちと、アカウントつくってなんか撮ろうとは思ってたんだけどねぇ」正確には、アカウントは創るだけ作ってあった。テスト的なものを一本投稿して以来、まだ何も投稿していない。
「じゃ、ちょーど良いじゃん。管理はのんがやってるの? 相互フォローしてコラボしよー」管理はササだ。
「格差がさぁ」
「少ない側にはメリットしかなくない? って言っても、おすそ分けなんて偉そうなこと言うつもりは無くて、のんと一緒にやりたいだけなんだけどな」
そんなん言われたら、気合入っちゃうじゃん。




