会話
画面では主演の夫婦が会話をしている。まだ何事も起こっていない,平和なシーンだ。序盤が穏やかであればあるほど,緩急はつけやすい。
≪配役良いね。双子の姉と一緒にお茶飲みながら観てるよ。リラックスタイム! ねー、これ、怖い感じになる?≫
マレはスマホなどいじっていない。わたしも画面に集中しよう。と思ったら……。
≪え? え? 双子? なにそれ?≫
≪のんち双子だったの⁉︎≫
メッセージと、驚きやら疑問やらを現すスタンプが滝のように送られてきた。
≪あれ? 言ってなかったっけ?≫
≪聞いてない!≫
また滝スタンプ。
≪留学してて日本に居なかったから≫
≪関係なくない⁉︎≫
≪まあ、タイミングがなかったらあんま兄弟のこととかわざわざ言わないよね≫
≪確かに、わたしお兄ちゃんいるけど別に言ってないわ≫
≪まーそーなんだけどさー。双子は特別じゃない?≫
≪当事者にとっては特別じゃないよー≫
≪留学ってすごいね。才女がなんか? 今日本にいるの? 海外の学校は休暇が早いのかな? いつまでいるの? 紹介してよー≫
≪タイミングあったらね≫
≪カヨすごいぐいぐい行くじゃん! ふぅ~!捜査官~!≫
≪なにその煽り⁉︎≫
キリがない。申し訳ないけど少しスルーさせてもらおう。怖い感じになるかの答えも来ないし。
ホラーやサスペンスは苦手ではないが、グロと呼ばれるものや余りにも刺激の強い画はちょっとしんどいので、それ系の話なら多少気構えはしておきたかった。
明るく少々コミカルなシーンもあるが、ベースはシリアスな雰囲気で謎が多く続きが気になる構成だ。伏線もたくさんあるっぽい。ホラーのジャンルではないが、驚かせるような演出や、物語上刺激的なシーンがあってもおかしくはない。
≪バレエで留学してるんだよ≫
敢えての端的な返事には、少しの誇らしさと家族自慢が含まれている。きっとふたりは更に食い付いているはずだ。
さすがにそれらをひとつひとつ対応していたらドラマが終わってしまう。返事は後でにしようと、画面を閉じた。
わたしは片割れの顔を覗う。
張り詰めたものが薄れているように見えたマレに、そっと訊いてみた。
「最近楽しそうに見えるね。気のせいじゃないよね?」
「ん、そうかな? そうかもね」
マレは意外そうな顔をし,少し考えてから微笑んだ。
「それなら良かった。バイトが楽しいとか?」
「それもあるね」
他にもあるの?
「……この前ね、ミューズガーデンで前一緒だった人に会ってきたんだ」
マレが日本で通っていたバレエ教室だ。
今も退会したわけではない。先生とも公私に亘って都度相談の連絡をしていると聞いている。「前」という言い方は、相手は既にやめているということだろうか。




