吐き出して空にして
おばあちゃんの眼差しを受けながら、マレは言葉を溢れるがままにさせている。
「でも、それがわかっているのに、残るって選択肢もあったのに、現地には両親が残っていて、留学生の中では恵まれているのに、なのに帰ってくることを選んだ! がんばるのを止めちゃいたいって思ったんだ!」
普段は淡々と、飄々としていて。
どちらかと言えば余裕の笑みさえ浮かべていて。
そんなマレが、大粒の涙を流し、子どものように泣きじゃくっている。
「それなのに、自分でそう選んだのに。帰ってきたらきたでやっぱり焦る。何もしていないと焦りと苛立ちで気が狂いそうになる!」
言い終えた後、嗚咽を我慢しているマレは、やっぱり気位が高い。それでも零れ落ちる涙は止めようがなかった。
「こういう時、『わかるよ』なんて、安易に言わない方が良いんだろう? でもね、『わかる』よ」
おばあちゃんは穏やかに言った。
「そりゃあ、バレエの世界はわからんさ。でも物事を追求するうえでの本質は何だって一緒さ。蕎麦職人だって同じだからね。
まあ競技によって差があるのだとしたら、バレエはより厳しい方の競技なのだろうとは思うよ。
ミリ単位の精度を競う芸術と身体を使うスポーツの要素を持つ世界だ。美の追究には自らの身体を使うのだから、見た目の美しさを損なわない身体づくりひとつとっても想像を絶するんだろうね」
それほど厳しく険しい世界なら猶更、敢えて離れるべきだとおばあちゃんは言った。
「数週間か数か月か。フルスペックで練習できない期間がその程度でもあったら取り返しがつかなくなるほどの遊びの無い状態なら、どのみちどこかで無理は来る。
この先競技者人生を終えるまで、全くの余力なくテンションを張り続けるなんてできはしないよ。どこかで必ず一度はぷっつりとキレるときは来るんだ。
今この時、一瞬限りのことだってならこのまま走り切るのもいいだろうさ。だけどね、長く続けるつもりなら、そんな時を乗り越えられる足腰の強さを身に付ける必要があるんだよ」
おばあちゃんは言いながら、足元のシューズを取り、マレに手渡した。
マレは愛おしそうにシューズを両手に抱え、おばあちゃんの話を聴いている。
「マレはな。花のようなものだ。咲いた花に手間をかけより美しくすることはできるだろう。
だけどね、土壌からしっかりと整えた方が、持続力のある大輪の花が咲くと思わないか?
おまえはすぐに芽吹き、美しい花を咲かせちまったからな。咲いた花に目が行ってしまうのは人情ってもんだろう」
マレの涙はようやく落ち着いたようだ。まだ濡れた瞳には、もう険は取れていた。
「私も悪かったんだ。目の前で鮮やかに咲く花が、水をやればやるほど目に見えて美しく応えてくれる様をみたら、輝志と実夢が夢中になるのも無理はない。
夢中は悪いことではないが視野が狭くなるからね。だからこそ、少し俯瞰で見られる私らが客観的な見方をした考えも伝えていくべきだった」
輝志はお父さん。実夢はお母さん。




