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新入生

 入学式後に教室で執り行われるロングホームルーム。

 高校生活はある意味ここから始まる。


 担任の先生からはより詳細な自己紹介と、高校生活を迎えるにあたっての激励の言葉があった。


 武智弓親(たけちゆみちか)先生。なんか武将みたいだ。

 担当教科は地理歴史だから、日本史も教えるのかな。

 ちなみに見た目は別に武将感は無い。体育教師って感じでもないが、さっぱりした感じ。よくいえば爽やかといえなくもないが、初見の感想の通りあまりウェッティな印象はないので、熱血みたいなタイプではなさそう。


 続いて生徒の自己紹介。


 別に気負う必要はないし、さらっと消化して良いイベントだ。なんなら変に気合い入れると空回って痛々しいことになる。

 それでも、これが初の情報収集の場であり、情報発信の場である。無為にしてもたいした損失はないだろうけど、有意義にしようと思えばできる機会でもあるのだ。


 見たところこのクラスに小学校や中学校の同級生はいない。子どもの頃この学校の地域に住んでいたから、幼稚園や公園で遊んだ地元の子はもしかしたらいるかもしれないが覚えていないしわからない。

 全員初対面と思った方が良い。

 人は第一印象でほとんど決まるってなにかで見た。

 幸いわたしの順番は最後の方だ。みんなが何を言うのかを聞けるし、流れも掴める。自分が何を言うか考える時間もある。



 自己紹介の儀は粛々と進んでゆく。



 まあ大体そうだよね。

 中学時代取り組んできたこと。特技。入ろうと思っている部活。

 ない場合は趣味。

 意識高いひとは目標やら抱負やら、少し爪痕残したい系は自分の性格なんかを語るとか。


 うーん、わたしはどうしようか。

 どの方向性でいくのか。


 なんて思ってるうちに順番は迫ってきていた。



「それでは、次、柳沢」


「はい。柳沢(のぞみ)です」


 どうするか。語るべき特技もやりたいことも夢もない。部活も入るつもりないし。


「家はこの町で『弥那宜』って蕎麦屋やってます。学校からだと歩きじゃきついですが自転車ならいける距離です。美味しいので機会があったら食べてみてください」


 いや、家のこと言ってどうするの。わたしの紹介しないと。


「あとカラオケ好きです。みんなと仲良くなって一緒に行きたいです」


 なんで頭が悪そうな自己紹介!

 カラオケて!

 最後、小学生の感想文みたいになってるじゃん。

 取ってつけた感も酷いけど、わざわざ取ってつけてこのレベル感。取ってつけた史上もっとも偏差値低くない?


 方向性としてはやや無難寄りにするつもりだった。

 無難を通り越して薄っぺらすぎて、中身ない癖にかえって個性出ちゃってるみたいな、コワモテの人に「ぶっ飛ばすぞこのやろう!」とか怒鳴られるより、かわいい着ぐるみからぼそっと「やんよ?」って呟かれる方が逆に怖いみたいな感じになってしまった。



「『弥那宜』? あそこ柳沢の家だったのか?」


 正確には住まいは店舗の近くの家だけど。


「行ったことあるよ。ほんと美味かったな」


 ひとりひとりの自己紹介にあまり口は挟まなかった先生がそんなふうに言うものだから、生徒たちからも「行ってみたい」「食べたい」などの声が上がっている。



 何気にあの自己紹介、正解だった? かな?





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