吹きこぼれる溶岩
隣の部屋からは何かを叩く音がする。軽く硬い音が一定のリズムで鳴っていた。なんかの作業だろうか。
わたしもすべきことをしようと、机に向かった。
宿題に集中して三十分ほど経ったころ。
『ドン!』
隣の部屋の壁を打つ音に、驚いて身体がびくっとなってしまった。
隣の部屋。マレの部屋まで行き扉を開けて声を掛ける。「どうしたの⁉︎」
「ちょっと! 勝手に開けないでよ!」
紅潮するマレ。
扉側の壁の下にはトゥシューズが落ちていた。おそらく、これを投げつけた音と思われた。
「だって、あんな大きな音したらびっくりするじゃん! なんかあったのかって心配になるじゃない!」
「へぇ、心配してくれたんだ? それはどーも」
「ねえ、なんなのその感じ? 苛つくのは勝手だけど八つ当たりしないでよ!」
「悪かったわね。だったら、どうせわたしの気持ちなんてわかんないんだから、心配する振りやめてよ!」
「なにその言い方! 気持ちなんてわかるか! でもわかんないと心配しちゃいけないの⁉︎ マレだってわたしの気持ちわかんないじゃん!」
マレのベッドには、あの日獲ったぬいぐるみが載せられていた。わたしの部屋のベッドにも、同じ日に獲ったぬいぐるみが載っている。
胸がキュッと締め付けられた。
あの日、あんなに楽しかったのに。
「のんの気持ち? 総てを賭けてきて、それを失うかもしれなくて、そんなわたしの気持ちと同じ場で語るに値するような気持があんの?」
「わたしだって! わたしには何もないと思ってんの⁉︎」
言葉を投げれば投げるほど。
受ければ受けるほど。
心は真っ黒に塗り潰されていく。目がどんどん険しくなっていく。
「ふーん、じゃあなにがあんの?」
「……そんな風にわたしを見てたの……?」
見下すような眼をしたマレを見返すわたしの眼には、静かな怒りとやるせない悲しみが現れていただろうか。
「…………」
マレの方が先に眼をそらした。
少し気まずそうなマレ。
ここでわたしも矛を納めればこの場の争いは収まる方向に進むだろう。
だけど、「マレがどんだけ立派なのか知んないけど、勝手にやってることがそんなに偉いの? で、結果、今うちにいるんじゃん。わたしと何が違うの?」攻撃的な言葉が吹き零れるように溢れてくる。
「っ! このっ……! 一緒にしないでよ雑魚が!」
マレの眼が怒りに燃える。多分わたしも同じ眼をしているのだろう。
「一緒じゃないの! なのに自覚なく自意識だけ高いなんてより質悪い! あとくそださいわ!」
「何もしてない、成してもいないあんたよりマシだわ! 大体名前の読み方が一緒になるのも気に食わない! なんでわたしがのぞみ呼ばわりされなきゃなんないのよ」
「知るかっ! 名札でもつけてフリガナふっとけ。稀少価値高いみたいな名前に胡坐かいてっから気位ばっか高いスカスカ人間になるんじゃないの? くだんない!」
ヒートアップが行きつくところまで行くと、もう本人たちには止められなくなってしまう。
わたしは、多分マレも、これ以上はいけないと思いながら、言葉が止められない。




