マレとの会話
同じ屋根の下に、双子の姉がいる生活。
かつてと同じ環境に戻っただけなのに、少し心がくすぐったい感じがする。
マレの部屋はわたしの隣。
かつて叔父さんの部屋だったところがわたしの部屋となり、かつてお父さんの部屋で、その後両親の寝室となった部屋がマレの部屋となった。
「マレぇ」
マレの部屋の扉をノックしながら声を掛ける。返事がない。
「ねー、マレー?」
「んー?」
扉を開いてマレが顔を出した。
「ごめん、寝てた?」
「んーん、イヤホンしてた」マレが手にしたスマホからは白いコードが伸びていた。
「どしたの?」不思議そうに尋ねる。
隣の部屋で過ごしている姉妹が尋ねに来るのは不思議? 日常的でないなら、疑問が生じるのは仕方ないのか。
「や、別に。話したいなって思って」
「ふぅん。良いよ、まだ寝ないし。入って」
どこからか調達してきたっぽい座椅子がふたつ置いてあったのでそこに座った。わたしの部屋にも家の中で見つけた小さなベンチソファを置いている。マレにはまだ家の中を探検する時間はあまりなかったはずだから、部屋内に最初から残されていたのかもしれない。
テーブルは置いていなく、大きめのヨガマットが敷かれていた。
「へぇ、ずっと空き室だったのに、そんな感じしないね。住む人が入ると部屋に暖かさが宿るのかな?」
正直そっけない部屋だ。
叔父さんが部屋を出るときに、それなりに整理された部屋には、一部叔父さんが学生時代にこの部屋を使用していた名残がある。それはそのままで、最低限の荷物で暮らし始めたマレの色はまだこの部屋にはついていない。
それでも、新たな住人を迎えたその部屋は、そこはかとなく「十六歳の女子が住む部屋」という印象を形成しつつあるように感じた。
「あは、ファンタジックなこと言うね。まあのんって現実的なわりにそういうところあるよね」
えぇ、そうかなぁ?
近しい人が言うならそうかな? って思うきっかけになりそうだけど、正直お互いを深く理解し合っている関係性ではないと思っているから、ピンとこないこと言われても「適当に言ってない?」って感覚は拭えない。
「マレ髪ちょっと伸びたよね。伸ばしてんの?」
マレはショートヘアだが、印象よりは少し髪が長くなった気がする。とはいえわたしのマレに対する強い印象は小学校低学年で止まっているため、少し離れていたこの期間でイメージがその頃まで戻されてしまっている感は拭えない。小さい頃のマレは、少し髪の長い男の子のような感じだった。
ある時、わたしと混同されるのが嫌だと長い髪をバッサリ切って以来、彼女はショートヘアだ。
お母さんは「長い髪の双子の女の子」を好んでいたようだったが、姉の自我の芽生えを尊重し、以降ペアルックのような服装も娘たちが望む時以外は避けるようになった。
当のわたしたちは無邪気に、バラバラにしたいと言う時もあれば、お揃いにしたいと言う時もあり、お母さんはその希望を笑顔で叶えてくれていた。
「いやー、どうしようかなって。切りたいんだけど、シニョン作れないとなんないから」
バレエは髪をまとめなくてはならない。
ショートヘアが駄目ということではないが、ショートヘアだとまとめにくくなるので、大抵のダンサーは比較的髪を長くしている。
だから、マレがぼそっと言った「まあ、切っちゃっても良いんだけどね」との言葉が気になった。
「それで、どうしたの?」
マレが本題を促す。
特段目的があったわけじゃない。
ちょっと話したかっただけなのだが、改めて用件を訊かれたのならば、思い切って訊いてみても良いのかもしれない。




