【幕間】 マレ 〜最も身近にあった、最も遠くなったもの〜
バレエを始めてから交流機会が殆ど絶たれている双子の妹。
同じ家に住んでいても、同じ場所にいることも少なければ、自ずと会話も少なくなる。
それでも多少様子は知ることができた。
敢えてわたしの逆の生き方をする必要は無いだろうに、見えている範囲で捉えれば漫然と生きているように思えた。
己が才に溢れているなどと自惚れるつもりはないが、それでも一定の到達点には辿り着いている自負はある。
別にバレエでなくても、同じ資質を持つ彼女なら、何らかの道で、それなりの成果は得られると思えるのに、何もしていないのがなんだか歯痒かった。
小学生の低学年の頃にこの世界に入って以来バレエ漬けだったわたしは幼心にいろいろななにかを我慢していたが、なにも頑張っていない妹が、友だちと遊んでいて、友だちの中には(わたしではない)姉のような存在のひとも居て、そんな話を夕食時に嬉しそうに話していたのは気に食わなかった。
引越しした後も交流を続けていて、その人の工夫が詰まった年賀状を受け取った妹は嬉しそうに、そして自慢げに父母に見せていたことを覚えている。その笑顔はとても眩しく、美しかった。
嫉妬であることに間違いはないが、果たしてなにに対しての嫉妬だったのだろうか。
姉のように頼れる存在や、一緒に遊べる存在など、わたしが持っていないものを持っている片割れへの嫉妬か。
双子ではあるが実の姉でもあるわたしを差し置いて他人を姉のように慕う妹への苛立ちかと、妹が憧れる者に対しての嫉妬か。
そういう気持ちを一度持ってしまうと、コンクールなどで漢字名でエントリーしていると、妹の読み名と同じ音で読める字のため、妹の名の音で呼ばれることもあり、細かい苛立ちがわたしの中に募っていった。
わたしとは違うあの子と同一視されたくなくて、気に入っていた長い髪だって切って落としたというのに、まだ双子が影のように付き纏うのか。いや、双子の影はわたしの方なのか。
どれだけ栄光を手にしても、多くの友だちや家族の前で輝く笑顔のあの子の裡に灯る煌めきの前では、所詮誰かの評価で与えられたものなど、光源によって光らせてもらっている粗悪な金属片のように思えた。
わたしは一層、技術を磨き、魂を研磨した。
評価は誰かから与えられるものでも、誰かに与えられる感動は真物であれるように。
努力と奮励のその果てに。
留学資格と奨学金を獲得し、留学を決めたわたしは、拠点を海外に移すことになる。物理的な距離は、心の距離も遠くした。
しかし今、わたしはまた妹と同じ家で過ごすことになった。
縮まった物理的な距離は、心の距離も縮めるのだろうか。




