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マレ

 わたしの名前と同じ意味を持つ名を与えられた姉の(まれ)


 ふたり合わせて「希望」となるのは何とも安直だが、姉の名の読み方でもあるもうひとつの意味と同様、姉は希な資質を有していた。



 お父さんが取引先から譲ってもらったチケットで観に行ったバレエの公演。

 もちろん有料のチケットだから、それを家族全員分ももらえるなんて、お父さんは偉いんだななんて感想を持っていたが、今にして思えば、譲ってくれた方のお子さんが出演していたのかもしれない。

 取引先担当者の自慢のお子さんの晴れ姿を休日を使って家族総出で観に行くというのは、ある意味接待をする側としての要素も持っていたのかも。下手したらチケットは買い取っている可能性すらある。



 背景は知る由もないが、わたしもマレもその舞台を楽しめた。少なくともつまらないと感じたり飽きたりすることは無かった。

 取引先のお子さんの発表会だったとしても、その舞台に上るに能うダンサーはハイレベルな者ばかりだ。充分に見応えがあった。

 希にとってはそれ以上のものが、その舞台上にはあった。



 双子なのに、こんなにも感じ方は違うものなのか。

 その違いは、その後の人生にも大きな差異を与えた。



 バレエに殊更魅了されたマレは、これまではあまり見かけなかったわがままを大いに発揮し、バレエの世界に足を踏み入れ、のめり込んでいった。

 その夢中に比例するように実力を身に着け、コンテストの入賞者を多数輩出するレベルの高い教室にあって、早々にトップダンサーのひとりに名を連ねる存在となっていく。



 バレエを始めるには早ければ早いほど良いというイメージがある。

 幼児の頃から研鑽を積んでいる生徒も多いことを考えると、小学生の低学年から始めた希は遅い方だと言える。


 そんな幼い子どもたちが練習を続け、全国のコンテストに出場するのは、親の協力が不可欠だ。

 労務的な意味でも、業界に関する理解の意味でも、経済的な意味でも。


 メジャーな分野で世界中に競技者が居る。

 日本でも盛んな分野だが、本場欧州が別格で、国家の威信をかけて取り組んでいる国すらある。

 本気で取り組めば組むほど、お金がかかる。安くは無いレッスン費用や遠征費、消耗品に加え、留学まで視野に入れれば年間数百万円という金額が必要になるケースも珍しくない。



 マレの本気と、その実力に。

 うちの両親も本気で応えることにしたようだ。



 バレエの本場、ロシア、イギリス、フランスのうち、マレはフランス留学を目指すことにした。

 学びたい学校だか講師だかメソッドだかがあるのだそうだ。


 十歳にして既に頭角を現していたマレは、教室の指導者とも相談しながら据えた目標は、懸命に手を伸ばせば触れ得る、現実的なものだった。具体的には高校入学の年にフランスのバレエ学校に留学するというもの。


 現実的ではある目標を現実のものにするためには、高いハードルをいくつも越えなくてはならない。



 その目標を、両親は全面的に応援し、後援し、備えることにした。



 つまり、五年後にマレがフランスに留学できるための支援を全力でしながらも、その目標は達成できるものとして、同時に準備も進めたのだ。

 五年後に留学する娘を現地でも支援するため、それぞれの仕事や生活の拠点をフランスに移すことを人生の計画に加え、そして実現した。



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