ある通知
サンバチームをエスコーラといい、打楽器隊をバテリアという。エスコーラのダンサーとバテリアが合同で練習する場はエンサイオ。単に練習のことを指す場合もあるが、厳密にはダンサーのみやバテリアのみの練習はエンサイオとは呼ばず、バテリア練やダンサー練と表している。その他イベント前にパートやユニット単位で各々で組む自主練、講師を招くワークショップなどがある。
聴き馴染みの無い用語たちはポルトガル語の言葉だ。
サンバ発祥の地で本場のブラジルが公用語として使用しているのがポルトガル語のため、サンバ業界ではポルトガル語の使用率が高く、日本人が作った楽曲の歌詞の中にも使われるし、サンビスタ同士の挨拶もポルトガル語だったりする。
体験の時にバテリアの練習には参加させてもらったが、エンサイオには初参加だ。
ダンサーが踊る場で打楽器を演奏するってどんな感じだろう? 楽しみだな。
それなりに広い練習場に対し、その日練習に参加していたバテリアの人数はさほど多くは無かった。指導係のソータは今日は仕事で来れないらしい。
パートごとの練習のときはわたしはめがみちゃんと一緒にキョウさんというメンバーに教えてもらいながらスルドの基本的な鳴らし方を練習した。そのときは会話をしながら練習ができていたのだが……。
それぞれ別の会場で練習していたダンサーとバテリアは、簡単なミーティングの時に一堂に集まり、その後合同練習となる。
ミーティングでは入会後初のエンサイオ参加となるわたしの紹介もしてくれた。
なんとなく、これでみんなの仲間に入れたという気になれた。
合同練習開始後、わたしを襲ったのは圧倒的な「音」
語彙の少ないわたしに「すごっ!」以外の感想を抱かせない音の厚みは、バテリア練の時やいのりちゃんのスタジオでの練習では得られなかった衝撃だった。
少なくとももう会話はできそうになかった。
今日は人数が少ないのに、これだけの音量になるとは想像もしていなかった。
合同練習ではガンザという片手で振れるシェイカーでサンバの基本的なリズムを鳴らすことに集中した。
シャカシュカシャカシュカ……。
サンバの基本は二拍子。サンバの基本ステップである『サンバ・ノ・ぺ』は三泊目にアクセントがある。
ガンザではシャカ“シュ”カでそのリズムを表現している。
基礎を身体に刻み込むのにふさわしい練習なのだが、とにかくバテリア全体の音が大きい。会話なんてできないし、そもそもみんな演奏に入ってるから教えてもらうことはできない。正しくならせているかどうか、自信が集中して周りの音を聴いて判断しなくてはならない。
自分が鳴らしているガンザの音は『判る』が明確に聴こえるというより、感覚や触覚で把握している感じ。
この音の一部となるのか……。それはなんだか、特別なことのように思えた。
いのりちゃんと話したときに殆ど入会は決めていたが、体験をして、いのりちゃんちで練習して色々話して、ちゃんとこの楽器をやってみたいと思えて、より意欲的に練習に参加していることが嬉しくもあり、そんな一面が自分にもあったのかと驚きもあった。
やっぱりわたしにも、同じ血が流れてるのかな……と思うのはさすがに烏滸がましいか。
たかだかちょっと興味の持てるジャンルに出会えて、意欲を持って取り組もうと思えた程度で。
でも、なんだって最初はそんなもんじゃないかな。
とすれば、これは原初の種火と言っても良いのかもしれない。
それがやがて燃え盛る灯火となれるかは、わたし次第だ。
意識をしたからか。
これがシンクロニシティというやつなのか。
練習の帰り道、送ってくれるいのりちゃんの車の中で、闇に灯るスマホの画面を開くと、メッセージがあった。
《しばらくそっちに行くことになった。住む場所もそっちになるからよろしくね》




