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はじめたよ


「のんちゃん、スルドどう? 楽しい?」


 とにかく今は基礎の段階だ。基本的なリズムを反復し続けているだけ。

 ゆっくりだし単純な動きだからできないということは無い。が、長時間打っているとずれてきたりするので周りの音をよく聴き、集中する必要がある。大勢でやるときは指揮者に相当する『ヂレトール』がいるが、指示やサインを理解し、ずれないようにやっぱり集中しなくてはならない。

 できた! っていうカタルシスは無いのに、ミスった! というのは明確にわかるのだから、なかなかストイックだ。


 周りの楽器と一緒に音を重ねていると自らもリズムに乗ってくる気持ちよさはある。

 でも単独の練習だとやっぱり単調になりがちだ。

 楽しいか、といういのりちゃんからの問いへの回答としては、正直まだよくわからない。楽器の演奏そのものに対して明確な楽しさはまだ見いだせていない。つまらないわけではないのだけれども。




 見学の後、さっそく入会した初心者のわたしには、同じ楽器を担当するソータというメンバーが指導係になってくれた。少しの渋みと野生味が混在した男性だが、笑顔は意外と爽やかだ。これで市役所勤めというのだから世の中奥が深い。


 

 バテリア(打楽器隊)ではめがみちゃんの入会を皮切りに、いのりちゃんなど十代のメンバーが増え始めているが、それまでのバテリアは高齢化が課題であった。そんな中では三十代の若手とされていたソータは若さに比例した躍動感のある演奏をする奏者だ。


 全演奏の土台となり、ダンサーにとっての軸となるリズムを奏でるスルドは重要であることは重々承知しているが、外せない基礎である分どうしても単調さはある。そんな単調なリズムの繰り返しでもリズミカルに躍動感たっぷりに演奏するソータの奏で方は映えるし身に着けたいと思った。ササたちとの動画計画のことだけでなく、わたし自身どうせなら派手で格好良い方がテンション上がるし。

 なので、そういう意味ではもうひとつ、同じスルド奏者のキョウさんがやっているアレンジをふんだんに盛り込んだ演奏がすごく格好良かった。『テルセイラ』という役割のスルドのリズムの刻み方だという。


 サンバの基本となるリズムを担うスルドには、最も低い音で楽曲全体の礎となる音を放つ「最初」の意味を持つ「プリメイラ」と、その基礎の音に「応え」る、「二番目」の意味を持つ「セグンダ」という役割がある。

 二拍子の音楽であるサンバ。その基礎を担うプリメイラとセグンダの応酬が、サンバのリズムの基本となるのだ。


 めがみちゃんはプリメイラ、いのりちゃんはセグンダだ。

 妹の想いに姉が応えるといった演奏は、なんとなく胸に来るものがある。


 テルセイラはスルドの中では高音を担い、プリメイラとセグンダの応酬に合の手を入れる役割だ。演奏全体を華やかにする。

 手数の多さや多彩さなど、演奏を見ていても音を聴いていても格好良い。

 難易度は最も高そうだったが、わたしはテルセイラがやりたいと思った。

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