今日から、ここで
わたしは今日から、この町に住む。
この町には幼い頃も住んでいた。
両親は結婚してからも、父方の生家のあるこの地に基盤を置いていた。幼稚園の頃まで過ごした町だ。
通っていた幼稚園もこの町にある。仲の良かった子の名前も数人は思い出せる。何人かはまだこの町に住んでいるのだろうか。
どこかで会えるかな? 会えたとしてもわからないかなぁ。
小学校に上がる頃、お父さんが職場での昇進に伴い勤務地が変わったのを機に通勤しやすい場所に引っ越した。それが大体十年前だ。
そして今、お父さんは更にステップアップし、この春よりフランス勤務となる。
自ら望んで勝ち取った新しい職場だ。
フリーで通訳の仕事をしているお母さんも付いていく。
日本に残るわたしは、一人暮らしをさせてもらうという話もあった。
中学の同級生にもひとりだけど、地方の進学校の入学が決まり、春から寮生活となる子がいる。
他にもスポーツの強豪校とか、地方に住んでいて都会の学校に行くとか、いろいろな事情で一人暮らしとなる高校生は、多数ではなくても割といる。
気ままな生活送れそうだし、友だち呼んで遅くまで騒げたりできそうで、それもアリかなと思ったが、選んだ高校がたまたまこの近くだったため、都合が良いとおばあちゃんちに住ませてもらうことになった。
おばあちゃんちや幼い頃住んでいた町を意識して高校を選んだわけではなく、たまたまだったので、ある意味運命だなーとか思ってその案に乗った。
おばあちゃんもおじいちゃんも好きだし、お蕎麦食べられる機会増えそうだし、その方がお金もかからないし、結果論だったけど、その高校を選んで良かったと思った。
お父さんのお兄さんである叔父さん夫婦も住まいは近所ではあるがおばあちゃんちに住んでいるわけではないので、まあまあ広い家にふたりだけでの生活に孫が加わる状況を、おばあちゃんもおじいちゃんも喜んでくれている。
大好きなおばあちゃんとおじいちゃん。子どものいない叔父さんたちも昔から可愛がってくれた。多分気は使わせちゃってるけどお弟子さんたちも優しい。
これから始まる高校生活をこの町で、おばあちゃんとおじいちゃんのお家で、楽しもうと思った。
(歓迎会、楽しみだな。おじいちゃんのお蕎麦と天ぷら食べたい。時成おじさんと睦季さんと会うのも久しぶりだ)
でも、歓迎会の表題の奥に、本当の意図があるんだろうなと思う。
おばあちゃんとおじいちゃんとはこれから一緒に住むんだ。
叔父さんたちとも住む場所は違っていてもこれからは頻繁に会うことになる。
気なんて使わせないようにしないとな。