【幕間】 祷の空白10
「要はもう何でもないってこと?」
念を押す願子。願子は目の前の姉の言葉を、ある意味ひとつも信用していない。
「うん、そうだよー」と言う姉に尚訝しげな目を向けながらも、祷の眼を見て信用ができたのか、
「よかった……」と音が漏れるような声で呟いた。
願子の強張っていた顔がようやく弛んでいったのを認めた祷は、慈しむような目線を願子に送っていた。
「良かったけど! なんで何も言ってくれなかったの⁉︎」
また表情が変わる願子。「言ったんだけどな」なんて余計なことは言わない方が良いと判断した祷は、「心配させてごめんね」と、質問への回答ではなく先回りした言葉を掛けた。
しかし今日の願子は一味違っていた。
「ちがう! そういうんじゃない! わたしもう高校生だよ。ちゃんとわかるよ、色んなこと。祷は祷の中だけで完結しているのかもしれないけど、自分にとっては論理的に、俯瞰で、客観的に物事を掌握していても、周囲が同じ感覚でいるわけじゃないこともわかってるじゃん。
だから自分ではたいしたことないって思ってても先回りしてお礼言ったり謝ったりするんでしょ? だったら、手術とか入院って言われたら心配されるのも、説明が必要なのもわかってるよね⁉︎ その説明がないことを言ってるの!」
普段はなかなか見られない迫力の願子に、祷もさすがにこれは適当にあしらえないなと覚悟を決めていた。
「ごめんね……術式の難易度や失敗時のリスクの大小は素人では判断できないとするなら、成功率だけで考えたとして、親知らず抜くのと大差ないかなと。入院に関してもすぐ戻ってくるから、説明いらないと思ってて……」
「もー! 祷、頭良いのにばかなの⁉︎ 素人だからこそ、この場合は『手術』とか『入院』ていう言葉の印象に対してケアすべきなんじゃないの? 成功率ってなによ⁉︎ これ、だいぶ祷的な考え方で考えて言ってるからね? 祷的思考で考えたって説明は必要だったよ」
「仰る通りです。返す言葉もありません……」
しおしおにしぼんでいる祷を見てようやく平静さが戻ってきた願子は、「まったく……!」と言いながらも締めに入っていった。
「もうわかってると思うけど……本当に、心配したんだからね」
「うん、ごめんね」
「みんなもだからね⁉︎」
「もちろんわかってます!」
言いながら祷は、その場でサンバチームのトークグループのほか、友人やサークルなどいくつかのコミュニティに、心配をかけたお詫びとお礼、簡単な経緯と今後何の問題もない旨を報告し、見舞いに来てくれた相手へは直接通話で御礼と退院の報告を行った。




