【幕間】 祷の空白9
願子の祈りが天に届いた。
そんな風に願子が捉えるには、ドラマティックさが足りなかったようだ。
願子が祷を見舞い。
母親と祷の容態を探る短い会話を交わし。
部屋で少しだけ泣いて。
少し落ち着いた心を両腕で抱えるようにしながらまだ肌寒い夜の庭で。
空を見上げて月に祈ったあの日。
それから然程日をまたがず。
出発時と同様コンビニにでも行ってきたかのような気軽さで。
「ただいまー」
「なんで!?」
祷が帰宅したときは、祈りが届いた喜びよりも先に驚きの声を上げてしまっていた願子。
玄関口まで走ってきた願子は、閉じつつある玄関扉の外から、父親が車を車庫入れしている音が微かに聞こえた。
ケロッとした顔がきょとんとした顔に変わった姉に、「いるの!?」と続く言葉を投げかける願子。
驚きから生じた純粋な質問だが、捉え方によっては傷ついてしまいそうな言葉を、祷は言葉通りに受け止めて、「帰ってきたからだよ」と当たり前な答えを答えて微笑んだ。
「そんなことはわかってる」との言葉は、驚きのショックから立ち直りきれていない願子の喉は音に変換できず、ただ口をぱくつかせただけだった。
そんな妹の様子なんて気にもせず、ふぅ、と玄関に荷物を降ろした祷。シューズを脱ぎ、あらためて荷物を持ち直すとそのまま自室へと向かおうとする姉に願子はついて行きながら、
「身体、大丈夫なの?」
少し冷静になった願子は姉を慮る問いを発した。
「うん、おかげさまで。心配してくれてありがとね」
荷物持つよと気遣う妹。良いよと言う姉から強引に荷物を奪い、姉を急かすように姉の部屋へと促し、姉を室内のチェアに座らせた願子。
「荷物ここで良い?」
ラグの上に手荷物を置いた願子は、自身もソファに腰を掛けた。
「さっきおかげさまでって言ってたけど、大丈夫なのか答えてない! 祷そういうの多い!」
その手前の「なんで?」に対しての答えからもその傾向は伺える。
祷は元来、人の感情の機微と言葉にされていない行間を読むのに長けている人物だ。
願子が自分の入院をどのような印象で捉えていたのかすら、なんとなく察していたことだろう。
その上で、質問の真意ではなく言葉の額面のみに答えた祷は、明らかに「はぐらかす」意図があった。
そして、祷のような能力を持っていない妹の願子にも、そのことくらいは察知できた。
「あはは、ごめんごめん。うん、もう大丈夫だよ」
大丈夫って何!? と、尚食い下がる願子に、「大丈夫って訊かれたから、大丈夫って答えたのに……」とぶつぶつ言いながら、祷は手術によって根治したであろうこと、あろうというのは定期的に心電図を撮り、数か月後二十四時間ホルター心電図で図った結果を評価して、症状の改善が認められた段階で確定となること。
手術は成功しているため、ほぼ治っていると思って問題ないということを説明した。




