【幕間】 祷の空白2
祷には願子という妹が在った。
以前はその読み方にコンプレックスを抱いていた願子は、「まだマシ」という理由で読み方そのままの「がんこ」や、がんこありきの愛称「がんちゃん」と友人に呼ばれていた。
姉の祷も普段は「がんこ」「がんちゃん」と呼んでいる。
同じく姉にもコンプレックスを持っていた願子。それを故としてしばらくの間は姉妹仲にはぎくしゃくとしたものが流れていたが、いまでは願子のコンプレックスの緩やかな解消に伴い、姉妹仲も良好なものになっていた。
そのきっかけとなったものが、「サンバ」だった。
祷は妹の願子がサンバチーム『ソール・エ・エストレーラ』(メンバーや関係者は『ソルエス』と略すことが多い)に所属したのを機に、妹に対し過剰な興味と愛情を持っていた祷は、妹と同じ趣味に没頭したい、妹の近くで妹の様子を見ていたい、と同じチームに所属した。
『ソルエス』の代表は東風治樹という三十代半ばの男性で、先代からチームを引き継ぐ形で代表となった。
彼は『東風クリニック』という地域密着型の病院の院長でもあり、こちらもまた、父親でもある前院長より引継いでいた。尚、前代表は演者として現役でチームに所属しており、前院長もまた『ソルエス』のメンバーであり現役の演者であり、クリニックの方も一医者として現役を続けている。
元気の良い先代たちに囲まれて、四苦八苦しながらも二足の草鞋を丁寧に掃きこなしている彼を、祷は尊敬していた。
院長である医師と縁ができ、立地もサンバの練習で訪れるエリアでもあり、生活圏から然程遠くない『東風クリニック』が、以降祷にとっての掛かりつけ医となった。
大学生である祷は、学業の他サークルや実行委員、家庭教師やアプリの開発などの仕事、高校生時代のブラスバンド部経験を活かした動画配信チャンネルでの活動など、忙しく充実した日々を送っていた。
そこにサンバの活動が加わる。
サンバも一参加者としてだけでなく、イベントをつくる側の立場や、チーム運営、サンバという文化振興に関する活動などにも興味を持ち、活動内容に加えていく。これまでの取り組みを削ることなく。
無理がたたったのか、ある日電車移動中に車内で倒れてしまった祷は、治樹の強い勧め(というよりも指示)で検査を受けた。
簡易的な検査や問診では異常無しとの所見だったが、念のため心電図を専門医に見せたところ、再度の検査を求める封書が祷に届いた。




