姉妹
心配する妹に、その心配自体が些事であるかのような対応をする姉。
まあ、これに関してはめがみちゃんの気持ちの方がわかる。
いのりちゃんの考え方や行動は合理的過ぎるし、なにより自身を心配するであろう周りの人たちの気持ちがまるで考えられていない。
幼い頃の、私の記憶にあるいのりちゃんも、他者に対して慮ることには長けていたが、自身が思われる側になるということが大体の場面で抜けていたような気がする。
自分は配慮する側であって、される側ではないという前提が既に組みあがっていたようにも思えた。
「このときもね、わたし怒ったんだ。結構ちゃんと理路整然と祷の駄目なところ怒ってあげたんだよ」
笑顔はそのままで。困ったような顔が、少し慈しむような顔に変わっていた。
「祷も珍しく、慌てて謝ってた。サンバのメンバーにも相当心配かけてたからね。メンバーにも謝んなよって言ったら、素直に即メンバーのグループに心配かけたことを謝ってたよ。面会に来てくれたひとたちには直接連絡取ってた」
ちなみに面会時はほとんど眠っていて、まともな会話は誰とも交わせなかったようだ。
それは麻酔が効いていたタイミングもあっただろうけど、合理的且つポジティブないのりちゃんは、こうなってしまった原因を自ら過密に組んだスケジュールにあると反省し、この機を身体を存分に安め、内側からしっかり整える機会と捉え、意識して睡眠をとり、脳も身体も使わないという選択を取っていた、という理由だか言い訳を聞いたときは、めがみちゃんはもはや呆れ果て、「お姉ちゃんてシステムかなんかなの? 全然人間らしくないよね」と、少し嫌みも言ってやったのだと嬉しそうに話していた。
なのに!!
めがみちゃんの表情はころころ変わる。
今はちゃんと怒っている。
「その舌の根も乾かないうちに、今度はブラジルに行ってくるなんて言い出して!」
さすがにわたしに怒られた後だったからか、結構事前に計画については報告されたが、地球の裏側に、しかも三週間も行くっていうのに、その報告が出発の二週間程度前なんて信じらんない! とご立腹だ。
距離や期間によってその案件の軽重が決まり、重い場合は早めにという気持ちはわからなくもないが、理屈はあまりわからない。
別に二週間前ならそれほどぎりぎりだとも思わないけどな……。
まあ、直前に不安な目にあわされ、心配させられ、その矢先にこの話。
サンバの本場ブラジルならめがみちゃんも行きたかったのに、(学校があるからいけないことはわかりきっていたとはいえ)事前に報告も相談もなく決定事項のみを伝えられたこと。
そのあたりのことを全部ごちゃ混ぜにして、「勝手にいなくなって」「怒っている」に繋がっているようだ。
もちろん、本気で怒っているわけではない。
喪うかもしれないと恐れた大切なものが、無事に戻った。
その喜びは端々に見て取れた。
その安心があるからこそ、既に喉元を過ぎた不安や恐怖や悲しみをネタにできる。怒って見せられるのだ。
失いたくなかった大切な当事者に向かって。




