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いのりちゃんの入院

 現時点では自覚症状はなく、リスクが高くなるような疾病も抱えていないため、将来的に症状が重くなってから投薬による対症療法により対応する選択肢もあったが、まだ若く先の長い人生を考慮した結果、この機に手術で根治させ、後顧の憂いを立つことにしたそうだ。


 心臓病の手術と言ったら大げさなものを想像してしまうが、入院期間は検査から手術できる体内状況に整える期間を含め1週間もかからない。カテーテル手術なので、身体を切ったりはしない。

 手術後は比較的スムーズに退院でき、そのまま日常生活に戻れる。

 手術成功を以て根治となるため、その後の生活には何の影響もなく、投薬も必要ない。


 要約すれば、必須ではないが将来のために行う手術で、その内容は比較的軽いものだった。少なくとも生き死にに関するようなものではない。



 けれど。



 いのりちゃんは自立心が強く即断即行の気が強い。

 保護者の同意が必要なものなど、一部本人だけでは進められないものもあるが、基本情報を得てから行動に至るまでのスパンが短かかった。

 分析や選択は一瞬で行われ、悩んだり迷ったりする段階をほぼ挟まない。相談事も然り。

 この点が身内であるめがみちゃんとしては不満なようだ。もっと頼って欲しかったのだと思う。



 めがみちゃんがいのりちゃんの状況を知らされたのは、入院前日だった。しかも「心臓病で入院することになった」とだけ。


 知識の無いめがみちゃんは混乱と不安のさなか、微笑むいのりちゃんの顔すら「妹を心配させないようにするための立派な姉の配慮」と捉えていた。



 ばたばたと、旅慣れたものが思い付きで突如旅立つみたいに慌ただしく入院する病院へと行ったいのりちゃん。


 ろくに挨拶もできなかっためがみちゃんが送ったメッセージは既読にならず、限られた面会時間に訪れても麻酔が効いているのか眠ったままのいのりちゃんに、めがみちゃんはこの世の終わりのような気持を味わったのだそうだ。尚、他の面会者も同様だったようだ。




 そんな当時の様子を、拗ねたような困ったような、でも笑顔を作りながら話すめがみちゃんから発せられた情報は、私の暗い予測を裏切り、私の願いが聞き届けられたかのような内容だった。




 大切な姉を失ってしまう。

 そんな不安と絶望感に心を塗りつぶされていたがんちゃんだったから。

 一週間も待たずに姉が帰宅してきたときは心底驚いた。

 手術日を起算日としたら、翌々日には家に戻っているという状態だ。



 ケロッとしている姉に、めがみちゃんは詰め寄った。



「なんで入院することもっと前に言ってくれなかったの⁉︎」

 すぐ決めて、その後準備とかあったから……。



「なんでメッセージ見てないの⁉︎」

 入院って結構忙しいんだよ。分刻みでやることあったり、動き固定されたりしててさ。



「手術終わったなら終わったって、成功したって、すぐ帰るって言ってくれたって良いじゃん⁉︎」

 手術後も色々忙しくて。しばらくは麻酔残ってて動けないし、拘束も完全に外れてないし。それになんせすぐ追い出されるからね。退院準備進めとかないとならなくて。



 そして、それらの問いのすべてに於いて、「どうせすぐ退院するから、必要なことはその時に話せると思って」なのだそうだ。


 悪びれる風もなく微笑みすら湛えて言ってのけるいのりちゃん。


 まるでちょっとした旅行、もっと言えば、日常でたまに起こり得る学校や友だちの家、ネットカフェやカラオケなどでオールして帰らない日などと同程度のものと捉えているようだった。


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