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いのりちゃんの症状

 めがみちゃんが言った「勝手にいなくなった」という言葉を「心臓病」「入院」「手術」などの言葉に紐づけると、暗い結末しか見えてこない。


 強がりなのか空元気なのか、めがみちゃんは敢えて調子を軽くし、表情も笑顔をつくろうとしている様子がうかがえた。



 暗くならないように話そうとしている。とも思えるが、暗い事実、重い結末があったとするなら、時期的に何カ月も経ってはいない。そんなに簡単に吹っ切れるものだろうか。

 多分無理じゃないかという思いは、望まない結末に結びつけたくないという私の願いだったのかもしれない。





 いのりちゃんには自覚症状はないが不整脈があった。

 疾患を抱えてない健常者でも不整脈を発症している人は意外と多く、そのほとんどが特に対応を必要としていないものだった。


 しかし、不整脈の中には無視できないものもある。「心房細動」もそのひとつ。


 加齢や高血圧、喫煙や飲酒などの習慣によって引き起こされるリスクが高まる病気だ。若年よりも高齢、女性よりも男性が掛かりやすい。

 そのすべてに該当していないいのりちゃんに、精密検査の結果与えられた病名が、心房細動だった。



 若い女性。

 比較的規則正しい生活。

 生活習慣に問題無し。

 健康で疾患は無く病歴も無し。

 自覚症状無し。

 若くして心臓病を患った親族はいない。


 先天的にも後天的にも心房細動の誘因となる要素をほとんど持っていなかったことが、その病名が真っ先に選択肢に上がらなかった理由だったのかもしれない。


 しかしその病気は、ストレスや疲労などの影響も受ける。


 問診でのいのりちゃんが答えた回答の中には、ストレスや疲労を感じていると評価される内容は無かったらしい。


 しかし、自らが感じていなかったとしたら、回答には現れなくても、心身には蓄積していったことだろう。

 むしろ、自覚ない方が溜め込みやすいのかもしれない。




 めがみちゃんから聞いた話では、いのりちゃんはかなり過密な予定をこなし、課題や作業を処理していた。


 どれだけ能力が高かろうが、身体は物理的な影響を受け続けるし、精神もまた疲弊する。


 達観した考え方で、ストレスとは無縁なように見えていたという。少なくとも、めがみちゃんはいのりちゃんが本気で怒ったり悲しんだりしている姿は見たことが無いそうだ。

 でも、だからといって怒っていない、悲しんでいないとは限らない。

 本人が気づいていなかったとしても、潜在的な悲しみなんてものもあるんじゃないだろうか。これもまた、気付いていない方がより落としにくい汚れのように、心にこびりつき、重なっていくように思えた。




 もしそれが、子どもの頃からずっと続いていたのだとしたら。


 いのりちゃんの心臓に負荷と負担をかけ続けていた可能性はある気がした。


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