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別に深刻な相談や打ち明け話があるわけじゃない。そういう雰囲気も出していなかったけど、おばあちゃんはどんな話でもまずはちゃんと受け止めてくれそうな雰囲気を出してわたしの発する言葉を待っていた。
「前話した姫田さんだけど」
バイト初日にトレーナーの先輩が幼馴染のめがみちゃんだと知り、おばあちゃんには初仕事の出来事として伝えてあった。
おばあちゃんは姫田家のことを知っていた。
住んでいる場所は同じ地元だが地区は違う。
それなりに人口もいる町だから、いくらおばあちゃんでも誰でも彼でも知っているというわけではない。
姫田さんはうちのお蕎麦屋に予約を入れてくれたことが何回かあったそうだ。
お客様のことであればおばあちゃんは大抵覚えている。
さすがに相当昔の一見のお客様を全部覚えているなんてことはないが、何度か予約してくれている同じ町に住む一家のことはよく覚えていた。多少会話もしたそうで、名前くらいなら大体の人が知っている姫田グループの創業者に連なる一族ということもあって覚えやすかったのかもしれない。
「よくうちの店にも来てくれてたんだよね? 最近も?」
「良くっていうと語弊あるかもね。回数で言えば片手を超える程度だったはずだ。最後にいらしたのは七、八年前くらいか。
家族でいらしていたからな。なんせご主人がお忙しい人のようだ。家族揃ってっていう機会はなかなか取れないんじゃないかな」
そうなのか。まあ本物の貴族や資産家でない限り、お金持ちの家の稼ぎ手ってのは、わたしたちの親世代の年齢なら忙しい人が多いのだろう。
少しだけ、めがみちゃんにシンパシーが湧いた。
また、忙しい中の貴重な家族揃っての外食の機会に、数回とは言えおじいちゃんの蕎麦屋が選ばれたのは嬉しかった。
「そんな前だと今の様子はわかんないよねぇ。めがみちゃんのお姉さん。いのりちゃんって今この町に住んでるかとかわかんないよね? 確か大学生くらい、まだ卒業はしてないと思うけど」
「あの子か。覚えているよ。人懐っこくてよくしゃべる利発そうな子だったね」
「へー、覚えてるもんだねぇ。めがみちゃんのことも?」
「わかるよ。内に向いた印象はあったが、人見知りとか引っ込み思案って感じじゃなくて、意外と我が道を往く感じがあったね。なんて言うんだろう。他人である私ら店のもんに対して、おとなしいが物怖じはしてなかった。そのまま育っているなら、結構芯の強い子になっているんじゃないかい?」
「まだそんなに話せてないから実際のところはわからないけど、意外と強そうってのは何かわかるかも」
「それでお姉さんの方、いのりちゃんな。町を出たって話は聞かないねぇ。まだ学生なら親元から通われてるのだと思うよ」
「へー、わかるんだ?」
「さほど大きい町じゃないからね。まして客商売だからさ。お客様との雑談の中で、共通の知人、まして名家名門のお家のことなら話題に上りやすい。人伝にって形にはなるが、それなりに情報は入ってくるもんさ」
それはあるだろうな。ファミレスでだって、直接話をしなくても、話が聞こえてくるなんてこともあるし。
「まあその場に居ない方の噂話に花を咲かせるなんてのも行儀の良いお話じゃあないからね。無粋にならない程度に当たり障りのない表層の話に留めて会話を進めているから、深くもなく真偽も確かめちゃいないがね」
「そっかー。今日学校でたまたまいのりちゃんの話出てさ。どうしてるかなって思って。めがみちゃんとはシフト被らなかったから聞けてなくて」
いのりちゃんが配信者としてちょっと有名で、クラスの友だちが認知していたことをさらっと伝えた。




