配信者
ふたりに初めて話しかけた時、動画の配信をしようなんて話をしていた。
実際にカラオケに行って映像を撮ったり、日常でもちょっとした際に撮影したりはしている。アカウントも作るだけ作ったが、そこで止まってしまっていた。
「そう言えば動画は? あのあとなんか撮った?」
「なんも」
まあある意味予想通りか。
ササが無気力に答えている横で、ルカが何かを思いついたような顔をした。
「あ、動画で稼ぐ?」
「簡単じゃないっしょー」
「まーそうだけどさー。視聴数で稼ぐのは難しいけど、投げ銭とかならワンチャンいけそじゃない?」
「運が良かったらその時だけの臨時収入はあり得るか?」
「人気出たら視聴でも稼げるようになるし!」
「それがむずいんだけどね」
「人気あるの参考にしてなんか考えようか」
「10000人越えもうちょっとって感じで、まだメジャーではないけど音楽系深い人なんかには知られてるINORIって配信者、この辺の人らしくて親近感湧くんだよね。参考にならないかなぁ」
「へぇ、近くにそんな人いるんだねぇ」
わたしもたまには動画くらい観るが、なんとなく流れてきたのを観たり、有名な芸人のものを観るくらいで、一般人の配信者をピンポイントで観るといったことはしていなかった。
「あ、良いかも。もともと吹奏楽部で自主練の様子あげてたんだよね」
「それアリなら、カヨのギターの練習上げ続ける?」
「それならやれるかも? 練習やんなって辞めちゃうのが既に見えてたルートだけど、動画、もっと言えば、お金を目的にできたら続けられるかもしれないっ」
「さすがカヨ! 欲望に忠実!」
「ササものんちもお金欲しいでしょ! みんなで稼ご。ギター練習以外のも撮ってさ」
「まーね。お金は欲しいわ。INORIもいくつかのコンテンツ同時にやってるし、ちょっと参考に見てみよう」
言いながらササが動画アプリを立ち上げ、目当ての動画を検索し、音を少し絞って再生したスマホ画面を見せた。
わたしとカヨは顔を画面に近づける。
画面では、洗練された感じの綺麗な女性が自分で演奏したコントラバスとクラリネット、太鼓それぞれの動画を編集して一本にしたものだった。見応えのあるパフォーマンスになっている。
ササはスマホを操作して、履歴を遡り、数年前の動画を流した。
いくらか幼くなった先ほどの女性が、部活の大会に備えてクラリネットを練習するといった内容だった。
特に演出などもなく、凝ってもいない。本当にただの練習の動画なのだが、なんだかついつい観てしまう。
なるほど、企画力なんてなくても、とりあえずやってみるというのはアリなのかも。
なんて思いながら、何か引っ掛かりを覚えた。
あれ、この顔.......というより、この表情、覚えてる。
あ。INORIって......いのりちゃん?
「この人、この辺りの人なの?」
「そうらしいよ。確か......あれ? のんてぃんちのとこと一緒じゃない?」
だとしたら、やっぱりこの人、いのりちゃんだ。
「えー、偶然だねー。もしかして見かけたことあるとか?」
「もしかしたら子どもの頃遊んだことある人かも」
身近にいたわたしが、お手本にしようと思った人物と繋がりがあるかもしれないことにふたりは、相互フォローがどうだとかコラボ案件がなんだなどと大騒ぎしていた。




