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モンスターバトル

 ほとんどのお客様は良いお客様だ。なんて言い方をすると良い子ちゃんすぎるだろうか。率直に言えば特に何の印象にも残らない普通のお客様がほとんど。たまに店員にとって嬉しい一言や配慮をしてくれる良いお客様。でも、店員に特に印象を残さない普通のお客様って、店員やお店にとっては実は良いお客様なのではないだろうか。


 印象的な言動のないお客様を、印象がないで終わらせず、ちゃんと記憶できれば良い店員なのだろうが、まだそういう段階には至っていない。


 そんな、ほぼ九割は占めていそうな普通のお客様も含めた良いお客様に混じって、ごくたまにだけど一定数、理外の価値観を持っているとしか思えない客がいて、強い印象や記憶が残ってしまうのだ。


 あまり良いことではないと思うし、店長には聞かせられないけど、乃木さんの言う通り、心を健全に保って良い接客を続けるためには、たまに言葉という形を与えて吐き出し、他者と共有するのは必要な気がした。



 実際、ファミレスの接客ではたまにとんでもない客に当たったりする。

 さっきの感じの悪い男性なんてどちらかと言えば普通のお客様寄りだ。普通のお客様の中では感じの悪いタイプといった程度。

 普通とは到底思えない「ヤバ客」は一定数いる。



「あ、わかる! それでいうとこんなヤツも……」



 いつの間にか今までに遭遇したモンスター比べみたいになってきていた。ポケモントレーナーになった気分だ。


 さすが長年の経験者だけあって、乃木さんのポケモンは種類も豊富だし強力だ。


 ありとあらゆるハラスメントが問題視され、カスタマーハラスメントなんて言葉もでき、モンスターカスタマーが表面化して「お客様は神様じゃありません」とか、「お客様は神様ですという言葉の本当の意味」などを目にする機会が増え、従業員側も顧客側も正しく在れるような啓蒙がなされはじめた現在よりも、古のモンスターは傍若無人だったようだし、一方、モンスターカスタマーが表面化せざるを得なくなるくらい、進化の先端をいっている予想もできない動きをする最新型モンスターは、過去のあらゆるモンスターのクレイジーな部分を内包し、且つ発展させた性質を持っていて脅威だ。



「なんか盛り上がってるね」



 洗い物の手は休めることなく、白熱のポケモンバトルを繰り広げていたわたしたちに、食器を下げてきためがみちゃんが少し呆れた顔を見せた。



「ほんとはね、ヤバ客あるあるみたいなのも描きたいんだよね。身元が割れてるしこの店のことだってのもばれちゃうからできないんだけどー……」


 復讐とかわからせたいとかやっつけたいとかではなく、我が身を振り返るきっかけになれば良いと思っているのだとか。

 そういう人ほど、自分のことじゃないって思いがちなんだけどねと笑いながらも、それでも、発信することでその可能性が上がるならと意義はあるかなーと言い、前洗いを終えた食器類を食洗器に運んで行った。




 それなりの毒を吐きながらも、終始飄々としていた乃木さんは、怒ったりもしていたけど実際はそれほどは気にしていないんだろうな。




「じゃ、次は来週ね。ふたりとも同じシフトだよね? わー、やった、楽しみ増えたなー」


 ヘルメットをかぶり「じゃねー」とスクーターを走らせ去っていく乃木さんを見送ったわたしとめがみちゃんは、どちらからともなく「じゃ、かえろっか」と駅へと向かった。




 客に嫌な思いをさせられた日だったが、乃木さんのお陰でわーわー文句言いながらも楽しい一日だった。

 なんならこれから新たなモンスターに出会うたび、乃木さんに報告できると楽しみになるかもしれない。

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