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はたらく

「19番様『せきまえ』! 急げるー?」


「19番様分、あがりました! いけます。キャリーお願いします!」



 バイトは順調だ。それに楽しい。

 たまにすごく忙しいタイミングがある。


 ホールはお客様で溢れて賑やか、壁を一枚隔てたキッチンは殺気立っていた。



 忙しさの中にあって、「働いてる」って実感は充実感となってわたしの身体を満たしてくれる。

 忙しいけど、忙しささえも楽しいと思える。やっぱりわたしもおばあちゃんの孫なんだなと感じられて、それも嬉しい。



「のんちゃん、19番様いける?」


「うん、行ってきます!」


 少し不安そうなめがみちゃん。「わたしが行こうか?」とでも言いたげた。


『せきまえ』とは、『急き前』が語源の業界用語。料理が遅いと催促されている状態を指す言葉だ。

 急いで料理を提供するのはもちろん、お待たせしたことへの謝罪の言葉を添える必要がある。


 大クレームで騒いでるみたいな状況ではない。わたしでも対応できる。


「さっき8番様帰られたよね? 19番様に出したら8番バッシングしちゃうねー」


 心配そうなトレーナーを安心させるために、余裕を見せておく。

 バッシングとは、空いたテーブルに残っている食器類を下げること。



 幼馴染であることがわかってから、わたしたちはお互い名前で呼び合い、敬語もあまり使わないで話している。

 歳の差は学校なら明確に先輩後輩の間柄になろうが、社会では一年くらいの歳の差なんてあってないようなものだ。


 職場の大人たちはそんなわたしたちをみて、めがみちゃんとわたしをコンビのように扱うようになっていた。もちろん、トレーナーであるめがみちゃんと新人であるわたしの関係性も考慮はされているが。

 わたしの呼び方も、めがみちゃんに倣って「のん」や「のんちゃん」で定着している。

 


 みんなには、わたしたちは仲の良い友達同士のように見えているのだろう。

 もちろん、わたしは心の奥底に微かな存在を認めた燻る想いなんておくびにも出していない。


 当然と言えば当然だ。


 そもそもめがみちゃん側になんの問題もない。どちらかと言えば、かつて名前をいじったわたしの方が負の感情を抱かれておかしくない側なのだから。



「今日は大変だったねー」


「うん。やっぱめがみちゃんはなれてるねぇ」


 めがみちゃんはそんなことないよーと笑ってる。

 学校の都合もあり、わたしもめがみちゃんもバイトの開始も終わりも同じ時間だ。

 自宅の最寄りも同じなので、同じ電車で一緒に帰ることが多い。


 まだどこかに寄っていくなどの出来事はなく、友達同士のように見えても、バイト仲間の関係性を超えてはいなかった。


 電車の乗車時間は長くはない。そこで交わされる会話の内容はバイト中の出来事に関することも多く、なかなかプライベートに踏み込んだ会話になる機会はない。なったとしてもすぐに駅に着いてしまうので、表層をなぞる程度だ。


「のんちゃんも動きスムーズだし顧客対応もうまいよね。おうちの手伝いとかしてたの?」


「いやー、うちのお店では働いたことないんだー」


 バイト先でも休憩が重なったり、ちょっと空き時間があれば私語くらいは交わしている。


 これまでのやり取りの中で、わたしが今おばあちゃんちに住んでいることや、家がお蕎麦屋さんをやっていることは伝えていた。



 一方、わたしの方が把握しているめがみちゃんのプライベート情報は、元々知っていた住んでいる場所についてより詳細に知れたことと、バイトは一年前から始めたこと。同年代でシフトが被るバイトがなかなかいなくてわたしが入ったことを嬉しいと思ってくれているということ。



 一応お互い連絡先は交換したが、交換時の挨拶以降、一度バイトに関する質問をしてその返事をもらったくらいだ。




「それじゃ、お疲れ様。次シフトかぶるのは明後日だね。じゃあまた明後日!」


「おつかれさまでしたー」



 駅に着き、高台の方へと帰るめがみちゃんと、商店街を抜けていくわたしは、それぞれ逆方向に歩いて行った。


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