トレーナー
「今日からだよね?」
「すぐ行くん?」
「うん、電車乗るからそのまま向かって時間的にちょうど良い感じかなぁ」
バイト初日。
面接のときもさっと見学させてもらったが、特別な感想は持てない普通のファミレスだ。
どこにでもある、家族でも友だち同士でも利用したことのあるチェーン店。
客として利用したときの印象と特に変わらないが、客として利用するにあたって、ある意味居心地がよく雰囲気が良いともいえる何の問題も見当たらない環境が、これからはバイト先としての環境にもなる。目新しさはないが慣れている分、安心感はあった。
「がんばってね!」
「今度行くからー」
友だちの応援の言葉を背に、「すぐはやめて! 慣れた頃に来てー」と返事をして教室を出た。
チェーン店運営会社の社員でもある店長さんのオリエンを終え、さっそく実地研修に入る。
トレーナーは同じバイト待遇の高校生。
一学年先輩で、わたし同様高校入学時に入店したとのことだから、バイト歴も一年になる。
もっとベテランぽい人たくさんいるが、年齢が近いのと、先輩の「教える側」としての練習も兼ねているのかもしれない。
「彼女が先日話した新人の柳沢さんだ」
紹介されたのはあまり年上には見えない小柄な女性。
「柳沢さん。姫田です。よろしくね」
にこやかに挨拶をする女性が名乗った姓に引っ掛かるものがあった。
姫田? ……んん......?
「柳沢です。よろしくお願いします」
挨拶を返しながら名札を見る。「姫田」とだけ記載されていている。新たな情報は得られていないが、記憶の奥底に蘇ろうとしている何かの存在を微かに感じた。
わたし、多分このひと知ってる。どこで会ったんだっけ?
「それじゃあ、こっち。ロッカー案内するね」
「はーい」
前を歩く姫田さん。やっぱり年上には見えない。まあ一歳差なんて誤差みたいなものだろう。
「柳沢さんのロッカー。中にユニフォーム入ってるよ」
ロッカーからユニフォームを取り出し、着用する。
シューズも支給品だがこれは実費で、初回の給料から天引きされるらしい。
サイズは事前に申告してあり、ぴったりのはずだが、少し緩いように感じた。動きやすさを配慮してあるのかもしれないが、LとかMといった大まかなサイズだからジャストフィットってわけにはいかないのだろう。
ロッカーの横にはトールサイズのミラーがあり、身だしなみをチェックできる。
ミラーにはユニフォーム姿の自分が映っていた。
うん、なんか働くって感じがして良いね。気合入る。
ユニフォームや身だしなみなど、細かいルールがあるようで、姫田さんから一通り指導を受けた。
ネイル禁止なのは残念だが、事前に知らされていたし、どうせ学校でも禁止されているから問題はない。髪も結べばOK。
よし、こんな感じかな?
支度を終え、姫田さんにチェックしてもらう。




