クラス
入学式の日はそれぞれ一方的な自己紹介を発信し受け取っただけで、実際のコミュニケーションが発生するのは今日からだ。
クラスに知り合いは居ない。多分学校全体を見てもほぼ居ないだろうと思っている。
幸い、クラスの中で既に人間関係ががっつりできていて固定のグループが出来上がっているなんて状況にはなっていない。スタートラインが同じなのはありがたかった。
「あー、あれの......ピカきん太郎とか、DJぽんきちとか、企画が......」
「……で、MAREのやつが……」
「あー、あれやばいよね。新しいの観た? ……がさぁ」
「へー。知らんかった。この辺にも……聞いたよ」
「知ってるかも。INORIじゃない? 最近更新されてないっぽいけど......のやつが......?」
「……なのかなぁ?」
「わかんない。......いよね」
「そっかぁ。でもみんなすごいよね」
「うちらもなんか撮る?」
「動画? やっちゃおうか?」
あの席、随分盛り上がってるな。
元々の知り合い? そうでないとしたらすぐ仲良くなったのかな。
昨日の自己紹介でもふたりとも感じ良さそうだったし話しやすそうだった。
ふたりの席に近づく。
「ふたりとも動画やってるのー?」
結構唐突に話しかけたので、ふたりは会話を止めこちらを見ていた。それほど驚いた様子はない。すぐに何らかの返事がありそうだが、先に話に加わりやすい感じにしとこう。
「突然ごめん、ふたりの話きこえちゃって」
「全然! や、撮ってはいないんだけど、せっかくだからなんかやってみようかーって話してたの」
「そうなんだー。わたしも話入って良い? ごはん一緒に食べようよ」
「良いよー。柳沢さんだよね? お蕎麦の」
自己紹介効果、あったね。
わたしの方も話してみたいと思ったふたりのことはきちんと覚えている。
「うん、よろしく。朝倉さんと唄野さんだよね?」
艶やかなダークブラウンの髪が美しい一見クールな雰囲気の方が朝倉さん。ダンスが好きだと言っていた。
淡い栗色の髪を三つ編みにしていて、ずっと笑顔のような顔をしている方が唄野さん。食べるのも料理も好きなのだそうだ。
ふたりとも特筆するような趣味ではないが、話し方や語り口がコミュニケーション力が高そうで話しかけやすく、また、話しかけたいと思える雰囲気があった。
加えて、特技や部活に関する内容は無かったので、部活に入らない可能性が高いと思った。それなら、仲良くなれたら放課後一緒に遊べる。
「カヨで良いよー」と朝倉さんが言うと、唄野さんも「わたしはササ」
「ササ?」
名前としてはなじみの薄い音に、つい聞き直してしまった。
「お菓子の紗々ってあるじゃん? あれと全く同じ字を書いて、読み方ササなんよ。だったらサシャの方がかわいかったなー」
「ササもかわいいと思うよ!」わたしが言うと、「だよねぇ」とカヨが同意し、ササもまんざらでもない顔をしていた。
「わたしはのぞみー。中学んときはのぞみとかのんって呼ばれてたけど、なんでも好きに呼んでー」
「おけ、のんカラオケ好きなんだよね? うまい?」
おお、カラオケのくだりもちゃんと記憶に残せていた。じゃああの自己紹介は成功だったってことにしとこう。
「んやー、普通? べつにうまくはないと思う」
「普通でも良いか? みんなで歌ってるのあげる?」
「え、動画? その話続いてたん?」
「だって終わってないじゃん。でもただ歌ってるだけじゃ伸びないかー。なんか面白い感じにしないと」
「踊る?」
「ふつー」
「のんって踊りは? なんかできそうな雰囲気ばしばし感じんだけど」
「え、ふつう、かなー」
「普通ってワードどんだけでてくんの」
「コスプレして踊る?」
「それでもまだ、そんなに珍しくないよねー」
「動画とかいったん置いといて、カラオケはいかない?」
「いーね、いこー」
「今日?」
「いーけど、みんな予定は?」
「別にない」
「わたしも」
「じゃ、いこー!」
すごい勢いで今日の予定が決まった。
ふたりとも部活に入ってないみたいだし入る気もなさそうだ。
いろんなことしたり、いろいろなところ行ったりできたら楽しいだろうな。




