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公開家計簿  作者: 鹿家加布里
8/18

何が正しいかわからないけど、絶対に変わらない真理からは誰も逃げられないというかんじ。

心労如何ともし難し。

実家に戻り、家族会議が行われた。

議題は、親父について。

6月末、親父が進行性胃がんのステージ4であることが判明した。

すぐに切除できないのでオプジーボを投与し、がんが小さくなってから手術を試みるということで話がついていたのだが、ここにきて風向きが変わったのだ。

膵臓と食道への転移が判明。

大手術を繰り返し、闘病するか。

抗がん剤治療のみで、最期を迎えるか。

主治医から、この二択を迫られたのである。

先日買ったパソコンも、弟と半額づつ出し合って親父へのプレゼントとするために調達したもの。

先の短い人間に進呈するにはちと贅沢だが、自己満足を買ったと思えば安かろう。

まぁ、それは置いておくとして。

親父は、徹頭徹尾自分の事しか考えない人間なのはわかっていたが、やらかしていた。

後期高齢者で胃がんで医者からも禁止と言われているのに、車の運転をしまくっていたのだ。

母親の制止も聞かず、だけならまだマシだが、こっちも後期高齢者で感覚がマヒしているため、親父に言われるまま助手席に乗り込み、片道40キロ先の病院まで同行したという。

ああ、この人たちはアホなんだった。

と呆れていたら、弟がブチ切れた。

轟く雑言飛び交う罵声、荒げる声に啖呵の応酬。

誰かを巻き込むような事故を起こさては、遺された我々にかかる迷惑がたまったもんじゃない。

母親もいつもいつも押し切られて情けない、悲劇のヒロインぶるのは勝手だけど巻き込むな。

兄貴は今日は黙ってろ、親父と兄貴の口論は始まったら歯止めがきかんから時間の無駄だ。

あと、罰として今後数か月は孫の顔を見せに来ないのでそのつもりで。

何故か自分にまで矛先が向いたのは釈然としないが、大筋は実に爽快だった。

何しろ自分が言いたくて仕方ない事を、ぼこすか打ち込んでくれたのだから。

出番なし、むしろ顔を出す必要すらなかったのではないか、と思うくらいに。

最早話し合いではない。

売り言葉に買い言葉だ。

なんとなく察しは付くだろうが、我が家は、すべからく親父と仲が悪い構図で成り立っている。

パソコンをくれてやるのも、ぎゃんぎゃんうるさいガキを大人しくさせるための苦肉の策。

無論、この手の餌付けのせいで増長させてしまったことは反省している。

が、こうでもしないと何一つ進まないのだ。

かつて親父と自分が仲良く包丁握り合って対峙する、とてもハートフルな家族愛が披露された。

かつて親父に母親がうっかり屋根から鉢植えを落とし、命中しなかった心温まる笑い話があった。

かつて親父が車庫で作業をしているところに、弟が後方確認をおろそかにしてぶつかった事があった。

やっと死んでくれるんだから、という想いが無いと言えば噓、というか本心だ。

だから、より良い形で死んでほしいのだ、もう誰にも迷惑をかけることなく。

結論は、驚くほどはやく出た。

手術はせず、抗がん剤治療だけで終わらせる、と。

親父の一存がそれだったことと、どうしようもないくらい殺伐としたこの場の空気の中、誰も

「おとーさんしなないでながいきしてね」

と言い出せる余裕なんてなかった。

それと同時に、一足先に楽になれる親父の境遇をうらやましく思った。

天敵同士だからこそ、なおの事だ。

とりあえず、これからどの程度の時間があるのかはわからないが、仲の良い家族を演じ切れば勝ちだ。

来週半ば。

家族の決断を主治医に告げる場に、立ち会わなければならない。

果たしてどういう顔をして、その場にいるのが正着だろうか。

唇を嚙み、無念をにじませるか。

いつものように飄々とするのか。

人格を疑われる表情をすべきか。

主治医はこの決断に、どういう言葉をかけてくるのだろうか。

疲れた。

とても疲れた。

親父の命の方向性が、喧嘩で定まってしまった。

一日がかりを覚悟していたのに、モノの一時間で。

世の中には、こういう人生の幕引きもある。

きれいごとじゃ、ないのだ。


☆昨日と今日の収支☆

出費:

交通費

●往復680円(税込み)


ビニール傘

●711円(税込み)


弁当4個

●1,837円(税込み)


ウォッカ

●537円(税込み)


財布:47,828円(パソコン代のキャッシュフローで+4万円)

通帳:80,431円

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