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序
真紅の体躯は太陽の輝きそのものを纏っている。
臙脂の瞳はどんな炎よりも赤々しているのに冷たい光を宿す。
想像もつかない力を秘めた体は無駄な肉など何処にもなく、神々が造形を行ったと言われれば信じてしまう程に均整のとれたもの。
力強く、ゆったりと羽ばたく翼の皮膜は日の光を受けて七色に輝き、巻き起こす風は火山の火口を思わせる熱を巻き起こす。
普通ならば恐怖を感じるだろう。
普通ならば絶望を思い出すだろう。
普通ならば悲鳴を上げるだろう。
普通ならば助けを懇願するだろう。
だが彼はただただ見つめているだけだった。
物陰に隠れていた事も忘れて棒立ちとなり見上げていた。
思ってしまった。
魅せられてしまった。
なんと美しいのだろうと。
まるで初めて虹を見上げた幼子のように。
驚きに目を丸くして、呆然と見惚れていた。