7 誘拐されたヒロイン
ばーちゃんに引き続き、ご令嬢達の恋バナのネタにされたわけだが、この国でこんなキャッキャウフフな話が出来るのはひとえに私達が高位貴族のご令嬢だからである。
学園までの登下校は毎日馬車を使うし、明らかに貴族です私って格好で外を出歩いたりしない。
ただ、家格が低い家のご令嬢とかは毎日毎日馬車なんか使ってられないので歩きで来ることが多い。その時には当然学園の門を通るのだから、魔力持ちの高確率で貴族だということがわかる。
とりあえず、何が言いたいかと言うと自衛力に自信のない人は一人歩きはやめようねって話である。
なんでこんな話をしたかって?一学期の最終授業日なのにヒロインが拐われて朝から授業どころじゃなくなったからだよ。
園長はすぐに騎士団と魔道士団に捜索願いを出したが、どちらとも今の時期は祭りやらなんやらが次々と開催されてて人手が足らないらしい。
ちなみに、なんで騎士団だけじゃなく魔道士団もかと言うと誘拐して閉じこめてある場所には結構強い結界が張ってあることが多くて、その結界の大半は物理無効の騎士泣かせだからだ。
んで、どうしたことかと頭を抱えた園長はあ、そういや孫とその婚約者が騎士と魔道士じゃんラッキーって感じで私と婚約者に白羽の矢を立ててきたわけだ。
「大丈夫だレティシア、逢瀬感覚でやればいい。アタシも水面鏡で見守って、何かあったらすぐに駆けつけるからな」
なぜだばーちゃん。絶対ばーちゃん一人でやった方が速いじゃんか。なんだ?恋バナのネタにしたいのか?六十代ってそんなに恋多き年頃だったっけな。私の知ってる六十代はもっとばーちゃんみがあるんだが。
あと、監視魔法なんて難しい魔法をこんな場面で使わないでくれ。絶対にそれ魔力大量消費系のやつだろ。もっと別のところで使ってほしい。
そんなわけで、捜索任務が始まったわけだが。
「……………」
一言も喋らないし、会話がない。そりゃそうだよな、こいつ私のこと嫌ってるもん。そこに至る経緯までは完全に私が悪いけど。こりゃ早めにヒロインのいう破滅とやらの対策をしとかないといけない。
多分、彼が二つ返事でヒロイン捜索の任務を受け取ったのは彼がヒロインに惹かれていっているからではないだろうか。
じゃないと、こんな面倒なことしたくないだろ。実際、王子率いる男どもは完全にヒロインを探しに行くつもりだったみたいだし。
ちなみにその男どもは「お前ら馬鹿なのか?騎士でもない奴が行ったって足でまといになるだけだろうが」という園長の言葉で撃沈してた。
そして、ヒロイン捜索と言っているが別に何も難しいことはしないのだ。こういうのは別に珍しいわけではないし、こうなった時の対処法もみっちり頭に叩き込まれている。
あちらさんが隠れる場所と言えば王都内には三つしかないので、そこを虱潰しにしていけばいいだけなのだ。そして、残念ながらもう二箇所外しており残るは一箇所だけである。
これで見つからないようならば、騎士団と魔道士団総出で捜索に当たらなければならない。
無能扱いはされたくないため、そうなる前にヒロインを見つけ出したいのは彼もきっと同じだろう。
その場所に向かう途中で祭りがあったので、路地裏を通って目的地を目指す。いかにもって感じの路地裏だが、祭りということもあってか、全然人がいない。
「へぶっ」
と思っていた瞬間にこれだ。
私の足に緑色の光の帯が巻きついて、この先行き止まりにされている。引っ張っても取れないので捕縛魔法の類だと思うけど、これだけで為す術がなくなるとは思わないでほしい。
この魔法が纏う魔力を下の方から感じるので、これに手を添え思いっきり魔力を放出する。魔力返しという力技だが、魔法の主導権を握ることができ相手を引き摺り出すのには最適な技である。
「ぎゃあぁぁあぁぁぁああ!!!!」
そう、こんな風に。ちなみに何をしたかと言うと、ただ単に引っ張っただけである。風魔法を並行利用するとなお良し。吹っ飛んだ瓦礫をちょっと別の場所に置いてアジトへ潜入だ。
「さすがだね、レティシア。あの技の決まり方が最高だったよ」
うわ、絶対こいつそんなこと思ってないな。絶対裏でなんであんな簡単な罠に引っかかったんだろとか思ってるだろ。絶対馬鹿力かよ引いたわ……とか思ってるだろ。
これを初見で引かなかったのはラフィリアだけなんだからな。あのおおらかなコーデリア嬢ですら最初にこれを見た時「うわぁ…」って言ってたんだからな。もちろんラフィリアは「さすがお姉さま!」って目をキラキラさせながら笑顔で言ってくれた。お姉ちゃん大好きっ子に育ってくれて嬉しい。
地下の構造は思ったより簡単だった。そういえば、前世で見た悪の秘密結社とかも地下に潜んでた気がする。てか、結構広いから悪用されるんじゃないかここ。ヒロインがいようがいまいが一度調査した方がいい気がする。
そして、一番奥の偉い人がいそうな場所に奴らはいた。
「よく来たな。私はネムレスト皇国第七王子のアンセントだ。以後お見知りおきを、ご令嬢」
縄で縛られてるヒロインと、現在辺境伯が小競り合いを頑張ってる敵国の第七王子である。こいつ捕虜にしたら結構な額もらえるんじゃないか?チラッと婚約者を見ると、小さく頷かれた。
それより、潜入した瞬間に攻撃されると予想して防御結界を張っていたから拍子抜けだ。とんだ無駄足と言うやつである。
「名乗られたのなら名乗り返すのが礼儀と言うものですね。お初にお目にかかります、マーティス公爵家長女、レティシアと申します。以後お見知りおきを」
例え相手が敵国に属していようと王子は王子なので、礼儀を欠くのはこちらの品位に関わる。見た感じ、この人は一応紳士という分類に入るのではないだろうか。いや、ヒロインを縄で縛っている時点で紳士もクソもないか。
「先程から見ていたが、君が引き摺り出した術使いは結構優秀な類に入る男でね。君さえ良ければマーティス公爵家ごとネムレストに属さないかい?」
………なに言ってるんだろこいつ。