6 お茶会のお邪魔虫
ヒロインがイベントが起きなさすぎて遂に自作自演を始めたらしい。そんな噂が放課後のお茶会で流れていた。
この放課後のお茶会は、アイリス嬢主催の週に一度だけ学園内にある中庭で開かれるものだが、なんとこの庭園の花は日によって咲いている花の種類が違うのだ。
最初に見た時は驚いたが何度も来ればなれるもので、今は純粋に日によって違う花を眺めるのが習慣になっている。
そんなお茶会で流れていた噂が『例の平民が自作自演で私達高位貴族が嫌がらせをしているように見立てている』と言うものだった。
何やってんだあのヒロイン。バレバレじゃないか。もうちょっと完全犯罪的なアレには出来なかったのだろうか。
「でも、普通に考えてありえませんわ。なぜわたくし達がそんなことをしなければいけないのかしら?庶民に嫌がらせをしてもただ喚くだけで面倒なだけでしょう」
「ラフィリア嬢の言う通りですわ。私達は魔力持ちの義務を学ぶ為に学園に入学したというのに、なぜ将来守らなければいけない平民に嫌がらせをするのかしら」
ちなみに、庶民と平民は同じ意味だが家や地方によって使い方が違う。うちは庶民派だけど、こっちは結構少数だったりする。
「アイリス嬢!なんでですか!」
お茶会出席メンバーはアイリス嬢、コーデリア嬢、私、ラフィリア、あとユーチャリス侯爵家のシリカ嬢。伯爵家から上の貴族子女が呼ばれるお茶会だが、たまに乱入者がくる。
そう、みんな大好きヒロイン(笑)さん……ではなく、コーデリア嬢の妹さん、フレデリカ嬢だ。
「なんでも何も、貴女をここに呼ぶ必要はないからよ。ここでのことが聞きたいならコーデリア嬢に聞けばいいでしょう」
フレデリカ嬢はアイリス嬢曰く、あの平民みたいで面倒だから呼びたくないそうだ。それをコーデリア嬢が、ごめんなさいってめっちゃ謝ってたのは印象深い。
「何故です?私はそこの愚姉より何倍も優れています!顔もよし、器量もよし、勉学も出来て魔法も強い!」
めっちゃ自己アピールしてくるやんけこの令嬢。ヒロインとはちょっと違った雰囲気だけど、たしかに苦手なタイプだ。
前に見かけたことある、駅のホームで喚いて観衆の視線を集めながら案内所の順番を無視して案内しろとか言った挙句、どこに行きたいのかを言わずに切符売り場に案内しろと駄々を捏ね、案内したらここじゃないと喚く迷惑な人。
多分三十代だったと思うけど、フレデリカ嬢が将来あんな人になりそうな気がする。
でもな、フレデリカ嬢。あんまりアイリス嬢の機嫌を損ねない方がいい。アイリス嬢は怒ったらガチで怖いぞ。それに、器量がいい人はそんな風に喚かないし、個人的には私コーデリア嬢の顔の方が好きだ。
世間一般的に見れば、フレデリカ嬢の顔の方が整ってるんだろうけどキツめの美人って感じで、私はコーデリア嬢の隣の可愛いお姉さん的な顔の方が安心出来る。
あと、ラフィリアの前でそんなこと言っちゃ駄目だ。姉というカテゴリーなら何処までも食いついてくるからな。
「あらあらまあまあ、わたくしのお姉さまの前で勉強が出来て魔法が強いとは喧嘩を売っていると思ってよろしくて?まず姉を愚弄するということは、貴女の家の娘を愚弄すると言うことだけど、ちゃんと理解出来ているのかしら?」
ぐだぐだグダグダぐだぐだ……………おい、ラフィリア。もうやめてあげなよ、フレデリカ嬢泣き始めたぞ。人格否定の綺麗な罵倒はヤバいって。
多分お茶会に呼んで欲しかっただけなんだよあの子も。一家で一人しか招待されないならまだ理解出来たんだろうけど、私達が姉妹で来ちゃってるからなんで?って思っちゃって突撃してきただけなんだよ。
「ラフィリア、そろそろやめてあげなさい。見ているこちらの方まで申し訳なくなってくるから」
「あらお姉さま。わたくしとしてはまだ言い足りませんし、これから個人指導に入ってもいいのですが、たしかにお茶会ですることではありませんね」
一応納得したらしいラフィリア。お姉ちゃんガチ勢に育ってくれて嬉しいのやらちょっと心配になるのやら。ちなみにフレデリカ嬢は私が止めてからダッシュで逃げて行った。そんなに怖かったんだね、ごめんね。
「仕切り直しといきましょうか。コーデリア嬢、紅茶のおかわりはいかがですか?」
「あ、はい、お願いしますシリカ嬢」
フレデリカ嬢が来てからティーカップを持って固まったままだったコーデリア嬢が動き出した。
「フレデリカが失礼なことを……申し訳ありません、皆さま。きつく言い聞かせておきますので」
「構いませんわ。常識外れのおバカさんは無視すればいいだけですもの」
コーデリア嬢は謝るが、誰も気にしてはいない。コーデリア嬢自身がいい人だということはみんな知っているし、妹がアレだからと言って疎遠にする必要はないからだ。
またみんなで楽しく世間話を開始すると、アイリス嬢が新たな話を切り出した。
「それより、私は気になることがありまして。学園長に若者が二人で行くなら何処がいいかを聞かれたのですが、何かご存知ないかしら?」
「私も聞かれましたね。最近流行りの観劇のこととか」
「ああ、そういえば噂になっているケーキの店も聞かれましたね。安価ですが美味しいとか」
おい、ばーちゃん何やってんだ。この前ばーちゃんが提案してきたアレと類似点が多いんだが。まさかとは思うけど、結構前から計画してたとかじゃないよな?
「ああ、わたくしも聞かれましたね。何に使うのかと聞けば、お姉さまとノアさまの逢瀬のために必要なことだとか」
ラフィリアはニッコリ笑った。わー、どうしよう。有耶無耶にしてなかった事にしようとしたこの話が二週間ぶりに、しかも妹の手で帰ってきた。夏休みまであと一週間なのに。そこまで粘れば勝ちなのに!
「さて、レティシア嬢もご存知の通り。私達は婚約者と複雑な関係ですわ」
はい、ご存知です。そして、謝りに行ってなかったんだなあの男ども。何のために私はばーちゃんの恋バナに捕まったと思ってるんだ。
「そう言う訳で、この手の話題が少ないんです」
コーデリア嬢に手をがしりと掴まれる。あ、逃がさないって言うことですね。分かりたくないけど分かります。
「お茶もまだ沢山残っていますから」
シリカ嬢がなんか怖い笑顔で紅茶を私のティーカップに注いでいく。お茶がなくなるまで話し続けろってことですね、はい。
「まずは観劇の演目から決めましょうか」
誰か助けてー。ばーちゃんに引き続き、高位貴族のご令嬢達がめっちゃグイグイくる。これじゃ婚約解消がスムーズに進むかわかんない。