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5 園長室での会話

 

「さて、何事かね?高位貴族のご息女サマたちがわざわざアタシの所を訪ねてくるなんて」


 この学園の学園長は、王立魔法学園というだけあって凄い魔道士だ。前魔道士団長で、魔法を行使することならうちの父に引けを取らない人である。

 名をロゼット・マーティスと言う。もうだいたいわかっただろうが私の祖母だ。

 この人が魔道士団長になった前例があるから、私は結構早い段階から魔道士になることが許されている。


「御機嫌よう学園長。ちょっと見ていただきたいものがありまして」

「見ていただきたいモノ?そこの馬鹿王子の浮気現場か?国の中央でも問題になってるヤツだぞ」


 すみません、残念ながら違います。たしかに浮気現場としか思えない所もチラっと映ってるけど。もっとやばい貴方が嫌いなやつです。


「説明するより見てもらった方が早いですから」


 園長室にある水が沢山入った器に手をかざす。水面鏡と言うものらしいが、普通の貴族の屋敷にはなかなか置いていない貴重品だ。王都にあるうちの屋敷には置いていないが、本拠地である領地の屋敷には置いてある。


 そういえば、私と園長以外誰も喋っていないのでどうしたのかと周りを見れば、私の婚約者は園長室を物珍しそうに見ていて、ヒロインは水面鏡をガン見、王子と宰相の息子は言い訳を考えているのだろうか、心ここに在らずという感じだ。


「ぶふぉっ!」


 あ、園長が吹き出した。水面鏡の方を見れば、男どもが地に伏してヒロインが「やめて!私の為に争わないで!」をしたところだった。そりゃ笑うよな。


 とりあえず、見せたい所は終わったので水面鏡との接続を切る。あんまり長いことやってると疲れるし。ちなみに園長はまだ笑っている。


「わ…たしの…ためっ……んふふふふ…」

「学園長、笑ってないでなんか言ってください」

「いじめ、良くない。素行点半減なお前ら。相手がノア・イグレシアスで、証人がレティシア・マーティスだったから何事もなかったが、普通なら謹慎モノだぞ」


 園長はなるべく厳しくしようとしてるんだろうが、まだ痙攣していて威厳もクソもなかった。でも、園長のいうことはごもっともと言うやつである。

 被害者が彼だったから何事もなかったし、私が発見者だったからこうして園長に報告できた。

 もし被害にあったのが力が弱い人だったら、まず確実に殴られていただろうし、発見したのが監視系の魔法が使えないご令嬢だったら証拠がないだろと押し切られる。


 私と彼が王子相手に文句を言えたのだって、私たちが公爵家(いいとこ)のボンボンだったからだ。


「あと、ルドルフ・アッシュガノンとレイ・ハミルトン。お前らの素行は中央でも問題になっている。学園内だけならまだ見逃すが、婚約者がいることを忘れるなよ」


 祖母は冷たい目で言った。空気が怒気をまとったそれになる。私と私の婚約者は慣れているが、王子達にはきついだろう。二十八歳という年齢で夫を戦場で亡くした人の言葉は重い。暗に、さっさと自分の立場を自覚してそれに見合った振る舞いをしろと言っているのだが、伝わっているだろうか。

 これで王子たちが反省して、婚約者に謝りに行くならよし。これで駄目なら本気で彼女達には婚約破棄をおすすめする。


「アタシからの話はこれで終わりだ。帰って良いが、レティシアは少し残るように」


 園長のその言葉を区切りにして、張り詰めていた空気が戻る。だが、私だけ残れとは何かしただろうか。まさか、祖母の部屋にあった魔道書を勝手に読んだのがバレたのだろうか。アレには祖母の考えた魔法が載っていて、まだ試作だから読むなと言われていたのを破ったからかもしれない。


 私以外が全員帰り、祖母は私に座るように言ってきた。お言葉に甘えて座ると、祖母はゲンドウポーズで私を見た。どこで知ったんだろうか。


「さて、レティシア。アタシが何を言いたいか、分かるか?」

「はい、申し訳なく思っています。ですが、お祖母様に近づく為と思ってやったことなのです」


 とりあえず、言い訳を述べる。許してばーちゃん、ばーちゃんみたいな素敵な魔道士になりたかったの的なことを言って咎めてくるばーちゃんはあんまりいないだろう。


「まあ、相手はあのノア・イグレシアスだからな。しょうがないと言えばしょうがない」


 はい、負けたくないんです。勝ちたいんです。勝って私の方が凄いと認めさせて魔道士団長を務めるなら私だなと円満に婚約解消したいんです。許してばーちゃん。


「だがな、レティシア。気を引こうと相手にそっけなくしていても、失敗することだってあるんだぞ」


 ん?ちょっと待って?何の話だ。


「レティシア程可愛ければ、まあ失敗することなどほぼないだろうが、今年はあのイリアという庶民がいる。アイツが馬鹿王子と同じだとは思わないが、万が一ということもあるから気をつけることだ」


 え?まさかの恋バナ?嘘だろばーちゃん。あんた今六十代だろ。乙女の恋愛事情が気になるなんて年頃じゃないだろ。


「まあ、安心しろレティシア。アタシが見た限りでは、ノアは他の女に目移りすることもないくらいにお前にぞっこんだからな。態度には出さないが」


 いや、違いますばーちゃん。彼は私にぞっこんなんかじゃありません。むしろ、ヒロイン(笑)はルート分岐で彼を選んだみたいだから、これから多分彼は彼女に恋して私に婚約破棄を突きつけて来るんです。むしろ、私は嫌われてますから。


 彼がそんな素振りを見せたことはないが、王子と宰相の息子がヒロインの言う通りになったのだ。彼がそうならないという理由はどこにもない。

 こっちを破滅させて来ようとするのはどうでも良いが、そうなる前にきちんと対策はしておく。


「とりあえず、二人で逢瀬でもしてみるといい。なーに、騎士や魔道士としての仕事があると言ってもお前達は学生なんだ。アタシから話は通して置くから、ノアを誘っておきなさい」


 でも、祖母はどうしても私と彼をくっつけたいらしい。多分、彼は私なんかと出かけたくないだろうし、何とかしてこの祖母を止めないといけない。


「まずは行先を決めよう。二人で楽しめる場所をアタシが教えてやるから帰ったらちゃんとプランを考えるんだぞ」


 誰か助けて、なんかばーちゃんがグイグイくる。

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