3 証拠とフラグ
「なーに、人のことを泥棒猫だとかなんだとか散々言っておきながら何事も無かったように立ち去ろうとしてるんです?」
もしかしたらこの世界は男女で起こるイベントが逆なのかもしれない。なら、河川敷で殴りあって友情を育むご令嬢がいる可能性も無きにしも非ずだ。
でも、泥棒猫はないと思うの、泥棒猫は。
婚約者を彼に奪われた訳でもないし、まずこの世界に泥棒猫なんていう概念があってそれを王子や良いとこのボンボンが使ったっていうのも驚きだ。どこで知ったのか気になる。
いつの間にかぬかるんでいた地面に転がされた男どもの顔には泥がついている。王族特有の無駄にいい顔が台無しだ。
この世界の貴族は何故か全員顔がいい。ヒロイン(笑)さん曰く、乙女ゲームの世界らしいので一応納得は出来るが、私としては国民の上に立つはずの貴族が醜かったら「不細工なのにチョーシ乗ってんじゃねーよ!」とかそんなので反乱が起きるからだと思ってる。
そして、前世では見なかった髪色目色も多い。
私とラフィリアは銀髪に金色の目。王子は金髪に碧眼。私の婚約者は濃紺の髪と目。ヒロインはピンクの髪と青い目。その他はオレンジやら緑やら紫やら。誰だよ考えたの。
「そして、大人数で寄って集って。これ、然るべきところに出せば王子であろうと侮辱罪と暴力未遂で謹慎は確実ですが」
「……しょ、証拠がないだろう!誰が見ていたわけでもないのに、勝手な事を言うな!」
あ、ごめん。私見てます。絶対気づいてないだろうけど。私再現魔法も使えるので証人にも証拠提出人にもなれます。
「証拠がないまま園長に俺たちを突き出してみろ!名誉毀損で訴えてやる!」
ドヤ顔で、これなら誰も文句はいえまいという感じに偉そうな雰囲気を出している王子。あ、偉いのは事実か。王太子ではないけれど王位継承権が一位なのは変わりない。こんなのが次期国王になるって大丈夫なんだろうかこの国。
そして、知ってるかどうかは知らないけど、いじめは相手がいじめられたって主張したら立派ないじめなんだぞ。
前世、それでめっちゃめんどくさかった人がいた気がする。小学校のときに、ふりっふりのゴスロリ着てきて「私可愛いのぉ」とか言ってたから誰も近寄らないでいたら、「みんなが私を無視するぅ」って泣いて保護者会でも問題になったやつだ。
学生時代の強烈な出来事だったから覚えてる。
私の婚約者はそんな感じのやつじゃないけど。むしろ、ガチでリンチされる五秒前だったけど。
王子やその他男どもが弱すぎたと言うより、彼が強すぎた。男どもの中には騎士を目指してたり、魔道士を目指してたりで王城内の訓練場で見たことがあるやつもいる。
普通、騎士とか魔道士の称号は成人後の試験で貰うのが一般的だが、それぞれの団長の許可を貰い一定基準を満たしていれば成人前でも貰える。
ただ、その代わりその称号を貰ったからには学生であろうと国家公務員的なやつなので、休暇中だろうがなんだろうが異常があれば駆り出される。
ちなみに、私は小さいときから魔道士団の詰所に顔パスで入れる。なんと言っても団長の娘なんだし無碍には出来なかったんだろう。
当時の私は、「やっぱり私には魔法の才能があるのね!」とか調子に乗ってた気がする。今となっては実力も身に付いてきたけど、アレを思い出すとなんとも恥ずかしい。黒歴史といっても過言ではない。
そんなこんなで、私は婚約者が決まっても詰所か訓練場にしかいなかったから彼の実力をよく知らなかった。学級での自己紹介の時に捕縛魔法が得意って言ってたからそれは知ってたけど。
でも、彼の実力を知ってますます私は結婚したくなくなった。多分彼は自分の家の跡取りを辞めてうちに婿に入ることはないだろう。
だとしたら、もしこのまま婚約が続き結婚することになれば私は魔道師団長の夢を諦めてラフィリアの婿が家督を継ぐことになるだろう。
女当主は認められているが、心優しいラフィリアは多分自分の魔法で人が傷つくのを嫌がるだろう。なんて優しい子なんだ。
話がだいぶ脱線したので元に戻すが、王子は一体どうするつもりなんだろうか。ヒロイン(笑)はうっとりした目で男どもを見てるし、恐らく私の婚約者は先生にチクリにいくだろう。
私に出来ることと言えば先生に証拠を提出することだけだから、さっさと帰ればいいんだけどこの状況を王子がどうやって切り抜けるかが気になる。
しらを切り通すか、謎理論でゴリ押しするか。
「じゃあ、証拠があればいいんですね?」
「ああ、証拠があれば教師の説教だろうが謹慎だろうがなんだろうが受けようではないか!まず、そんなことがあるわけないがな!」
態度デカすぎやしませんかこの王子。しらを切り通すにしてももっとやり方があるだろ。もし相手が再現魔法使えたらどうするつもりだ。
「ふむ、確かに僕は録画魔法や再現魔法は使えませんね」
「なら証拠がないと言うことで、何事もなかったことに」
おい、相手がちょっと引いたと思ったら強気だな王子。てか、名誉毀損とか法廷とかはどこに行った。
「わぁー!やっぱり私のために仲直りしてくれたんですね!うれしい」
「は?仲直り?そんなわけないだろう馬鹿なのかい?」
あ、やっぱそうなりますよね。多分ヒロインは嬉しいですに♡マーク付ける所まで言う予定だったんだろうけど見事に遮られた。
「確かに僕は使えないと言ったけど、使える知り合いがいないとは言っていない」
「その知り合いというのはマーティス公爵家の姉の方か?いくらそいつが使えると言ってもここにいなければ意味がなかろう!」
あ、ごめん。ここにいます。そして、ガチでリンチされる五秒前を見てます。
お前は馬鹿か!と王子が笑っているけど、ぶっちゃけ傍から見ればただの道化である。
コピー魔法とは便利なもので、記憶をコピーし相手に移すというのも出来るのだ。コントロールが難しいけど、マスターすれば証拠隠滅が簡単になるから早くマスターしたい。
再現魔法と録画魔法は言うほど難しくないが、コピーの魔法はめんどくさい。そして、難しいので限られた人しか使えない。
確か父は使えたはずだから、父に頼むのだろうか。彼の父親のパイプを使えばそう難しいことではない。そして、彼自身も父からすれば娘の婚約者だし。
じゃあ、もう別にいいな。一応先生に証拠提出して帰ろう。ラフィリアが家で待ってるし。さすがにあそこにいたら私のことなんて気づかないでしょ。
「そろそろ降りてきたらどうだい?レティシア」
あ、バレてますやん。さっきの私の発言はフラグだったのね。なるほど。