2 婚約者IN校舎裏with男ども
さて、私はヒロインに宣戦布告をされたわけだがこれと言って特に変わったことはない。
変わったことと言えば、強いて言うならば今まで婚約者のいる男性方にちょっかいを出していたのが、私の婚約者ただ一人になっただけである。
それは別にどうでもいいのだが、それを面白く思わない人達がいた。
そう、今までヒロインがちょっかいをかけてた攻略対象達と、我が妹ラフィリアである。
ラフィリアは分かる。姉の婚約者にちょっかいかけられてたら誰だってなんだアイツって思うだろう。思うよね?
ただ、男ども、お前らは駄目だ。なんで婚約者がいる分際で他の女の子に骨抜きになってんだ。
彼らの婚約者は私のお友達が多いので、割と相談が来る。宰相の息子の婚約者で気が弱いコーデリア嬢は「今まで一緒に登下校してたのにぃ……」と泣き、王子の婚約者で対照的に気が強いアイリス嬢は「あの女なんなの!?まず、なんであんな小娘を気にかけるのよ!!」と怒っていた。
アイリス嬢に「貴女も悔しくないの!?婚約者に粉をかけられてるのよ!?それでいいわけ!?」と肩を掴まれ揺らされたが、私としては彼がヒロインとどうなろうがどうでもいいし、これを機に父親に「やっぱりこんなことがあるから結婚はしたくない」と言えるのでむしろもっとやれとすら思っている。
この国では貴族は子孫繁栄の為に基本的には結婚すべしと言われているが、それは絶対ではない。どうしても異性が駄目な人もいるし、そういう人に結婚しろというのは酷なものだろう。
この国の憲法には人々の自由を尊重し、誰であろうとその権利を侵害するようなことは許されない。という一文がある。
それを大きく妨げることは無理なので、例え貴族であろうと本能的に結婚したくない人は結婚しなくていいことになっている。
なので、前に言ったことを否定するような事を言うが、一庶民が一国の王子と結ばれることも限りなく不可能に近いがないわけではない。と言っても、そこまで行き着くのには数多の障害があるので実質不可能に等しいのだが。
どうやらあのヒロイン(笑)さんは、前世でよく見た「私がヒロインなんだから、全部上手くいく」系の人らしく、ちょっかいかけた後のことは考えてないらしかった。
そう、私の婚約者IN校舎裏with男どもである。
どこからどう見てもリンチ現場にしか見えない。彼は次期騎士団長とも言われる程の剣の腕を持つらしいが、どんな鍛え方をしたのか細身で、他の騎士と比べれば相当華奢だ。握れば折れそうなくらいに。
嘘だろお前ら、痴情のもつれで校舎裏に呼び出されるのは女子特有のめんどくさいイベントじゃなかったのか?
私は知ってるぞ?お前ら、ヒロインのこと入学当時は魔力持ちとしての義務も知らない庶民だって言って馬鹿にしてたの。
この王立魔法学園は国内の魔力を持つものなら身分関係なしに入学することが義務付けられているが、基本的に貴族以外は魔力を持たないので一般庶民が入学して来たのは六百年の歴史の中でも初めてだったらしい。
それで馬鹿にしてたヒロインに骨抜きにされて、逆ハーレムの一員になったのに、ヒロインが一人を選んだから嫉妬してリンチしようとしてるのか。
これ、助太刀に入った方がいいのだろうか。学園内での闘争は若気の至りと言うことで先生たちから目を瞑ってもらえるのだが、いじめは別だ。一対一なら負けた奴が悪いが多対一ならどちらが勝とうが数が多い方に非がある。
むしろ、この数はいじめレベルなのでそれを見て見ぬふりをした私にも非があることになるのだ。
見たのがコーデリア嬢のようにか弱い令嬢なら許されるのだが、残念ながら私は次期魔道師団長になるために訓練中の戦闘派令嬢なのだ。か弱さなどどこにもない。
恐らく彼と二人で組めば負けはないだろう。さすがに、騎士団長の息子と魔道師団長の娘が二人で組んで負けたら普通に醜聞だ。
そんなこんなで色々と考えていたのだが、気づいたら全部終わっていた。
どうやら一発殴って捕縛魔法を使ったらしい。気を失うかどうかギリギリの所で首を締め付けている。
無駄にコントロールが良くてイラつく。お前騎士だろ!と悪態を付きたくなるが我慢だ、我慢。彼にとってはこの程度剣を使う必要すらなかったようだ。相手が弱すぎた、そう思っていよう。
「やめて!私の為に争わないで!…ってあれ?」
そして、どこから現れたか知らないがヒロインがなんか聞いた事があるセリフを叫びながら入ってきたわけだが、どこからどう見てもリンチ現場だったはずが気づけばいじめの対象以外全員地に伏している。
普通困惑するこの状況にヒロインは目を輝かせた。
「ノアくん!私に危害が及ばないように、全員倒してくれたんですね!流石です!かっこいい!」
ヒロインの言葉に、王子が反論する。
「イリア!かっこいいのは俺だけではなかったのか!?お前、俺に嘘をついたのか!?」
「そんな!私はルドくんに嘘などついていません!私にとってはルドくんもノアくんもみんなかっこいいんです!」
おーっと、ヒロインこれは悪手。かっこいい、それが王子やその他大勢に対する特別な言葉だとしたら、それを連発するヒロインはとんだ阿婆擦れビッチ。これはピンチだぞどうするヒロイン!
そのままじーっと見ていたら、ヒロインは泣き出した。そんなヒロインの姿に男どもはオロオロし始める。
「そ、そうか。済まないイリア、君を疑ってしまって……悪気はなかったんだ。ただ、君の気持ちがノアに向かって行くのが苦しくて……」
王子、まさかのガチ恋。ケッ、男は女の涙に弱いってやつか。これはもうアイリス嬢は慰謝料請求に向けて本格的に考え出した方がいいな。
「大丈夫だイリア。教室に戻ろう、きっとこんな所にきたから不安になってしまったんだ」
そんな事を言いながらヒロインの手を引いて歩きだそうとした王子と男どもだったが、残念ながらそうは問屋が卸さない。
ヒロイン以外の全員がまたまた地に伏した。もちろん、私の婚約者の仕業である。