表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/18

16 誘いと任務

 

「…………は?」


 婚約者が家に来て、何の用かと思えば逢い引きのお誘い。そう、逢い引きのお誘い。これが普通の婚約関係ならばあら微笑ましい、で終わる話なのだが、残念なことに私と彼に普通の婚約関係を求めるのは不毛である。


 なんせ、国内でも最高クラスの権力を持つ公爵家同士の婚約だ。そして両者共に嫡子。女当主は認められているものの、普通は男が跡取りになるのだが、なんせ事情が事情である。それはまた説明するが、とりあえずマーティス公爵家にもう跡取りの男が産まれることはないとだけ言っておく。


「いや、ホントに。なんなら郊外の迷宮潜りでもいいから」

「何それ普通に嫌だけど、なんでわざわざ任務じゃないのにそんな所行くの」


 本当になんなんだそのチョイスは。嫌がらせなのか。それ絶対魔法の可動域が狭くて苦戦するやつだろ。

 この世界には何故か迷宮と呼ばれる場所が沢山ある。公爵家の領地に三つづつと、王都に一つ。中には何故か魔物がいて、狩っても狩っても次の日には元通りになっているのだ。それ故に、騎士団や魔道士団では新人しごきに良く利用される。


 ゲームでいう、リスポーン地点的なやつだと私は思ってるけど、ゲームを知らない人からすれば不思議で堪らないだろう。そして、たちの悪いことにしばらくの間放っておくとそこから魔物が溢れてくるので定期的に……


 そこまで考えて、ハッとした。逢い引きの誘いの意味が分かったのだ。


「なるほど、騎士団(そっち)の団長から討伐でも頼まれたのか。それで都合のいい魔道士がいなかったから私に」

「いや、それは明日頼もうと思ってた事だけど。今日は普通に逢い引きのお誘いなんだけど」


 いや、どこに逢い引きで迷宮潜りを提案するやつがいるんだ。明日誘うとか言ってるけど、これ絶対今日あらかた始末して明日のを楽にするっていう魂胆があるだろ。


「あーもうっ!お姉さまもノアさまも一旦任務のことは忘れてくださる!?」


 一人で色々と考えてたらラフィリアがドアをバンッと蹴り開け……てはないな。蹴り開けたのはジョンだ。ラフィリアはジョンに乗って部屋に乱入して来た。多分屋敷の中を魔犬に乗って移動する貴族令嬢はどの国を探してもラフィリアだけだろう。それでいいのか貴族なのに。


「きゅぴー、きゅきゅ?」

「ほら、ジョンもなんでそんなに話が拗れるのか分からないって言ってるじゃない!」


 いや、それは多分なんでこんな所に連れて来られたのか分からないって顔だと思うんだ私。


「不躾ながら、途中から話を聞かせて頂きました。………いいですか、ノアさま。女性を誘うときはもっと手際良く!不慣れな印象は遊び慣れてる歳上の女性方にはウケがいいかも知れませんが、相手は恋愛ド素人のお姉さまですよ!?」

「あ、ハイ」

「戦闘関連のことを口にすればたちまち任務に結びつけられます。あなたがしたいのはなんですか!?」

「逢い引きです」

「ならお姉さまを誘う!そしてお姉さまはこの前お忍び用のワンピース買ったんですからそれ着て遊んで来てください!以上!!」


 怒涛の勢いでラフィリアは彼をまくし立てた。そしてなんか私は貶された気がする。多分ラフィリアは一切そんな気はなかったのだろうが。

 べ、別に?私にだって高校時代に彼氏の一人や二人……もいなかったけど。好きな人くらいはいたのだ、告白はしてないけれども。それより水泳って感じだったし。大人になったら多分出来るよねとか考えてたら大学生活なんて一瞬で終わったけど。


 そして、ラフィリアは一瞬で部屋から出ていった。まるで台風のようである。


「えっと……逢い引きじゃなくてもいいから、ご飯食べに行かない?もうすぐお昼だし、奢るから」

「じゃあついでに買い物もしよう。明日迷宮潜りするんだったら今日のうちに準備しておいたほうがいいだろうから」


 奢りにつられたとかそんなのではない。そう、断じてそんなのではない。他人のお金で食べる焼肉は美味しいと言うが、まずこの世界に焼肉のタレはないし、そもそも肉自体が高いので焼肉食べ放題とかやったら店潰れる。あくまでも、明日の装備品を整えるための買い出しも兼ねているからであって、そこに他意はない。


 嫌われていなかったという事実が発覚したのはいいが、私が彼と婚約破棄したいという事実は変わらないのだ。だってルーカス殿下は細いし、折れそうだし。いや、細くて折れそうと言う点では目の前の彼も一緒だが。


 とりあえず、着替えるので彼にはここで待っててもらう。夏なのでここも暑いが、外よりかはマシだろう。え?なら行商人でもなんでも呼んで買い物ここで済ませろって?費用が掛かるので却下。そんなことしたら私も彼も父親に怒られるわ。


 …………それにしても、ラフィリアは随分と着るには難易度の高い服を選んだものである。


 ミモレ丈の白いワンピース。しかも肩の部分は可愛いレースで、透けてはいないものの私みたいな顔の人が着るのはだいぶ勇気がいる。

 夏って凄い。これ冬だったら結構際どい感じなのに、夏なら暑いから仕方ないよねって感じである程度の露出は許されるって。いや、それでもふくらはぎの半分くらいだけど。


 この世界にメイク道具なんて便利なものはないので顔面はそのままだが、せめて髪だけはなんとかしよう。そう思ってメイドのアンナを呼ぶ。彼を待たせているが、アポ無しでラフィリアにしか相談せずにいきなり来たのは向こうである。私悪くない。


「あら、お嬢様。随分と可愛らしくなっておりますが、これから逢い引きですか」

「やめてくれアンナ。似合ってないのは分かってる。分かってるからこれ以上触れないで」

「おやまあ。年寄りの贔屓目を除いても可愛いのは事実ですぞ。アンナは嘘をつきませぬ」


 ほけほけと笑うアンナは御歳七十歳。ばーちゃんがここに嫁入りした時からうちに使えてるメイドさん。確かどっかの子爵家の三女だった気がするけど、子爵と男爵はこの国に十以上あるからどこだったか分からない。


 アンナは私の髪を櫛でといていく。なんかこれ地味に気持ちいから結構好きだったりする。前世はプール入った後手入れあんまりしてなかったからちょっとアレだったけど、今世はプールっていう概念がないからそんなことにはならないし、誰かがリンスとシャンプー作ってくれてたから髪も綺麗に保たれてる。ありがとうヘルゼ・リートルさん。多分転生者だと思われる人。


「はい、出来ましたよ」


 そうこう考えてるうちに終わってしまった。鏡を見ると、キツめの美人がちょっとだけ。そう、ほんのちょっとだけ優しい感じに見えたのでヘアアレンジって凄い。

 メイク道具があればこのキツめの顔もなんとかできるのだが、なんせどっかの国では化粧道具で命を落とした人がいるとかなんとか。そうなったら怖いので私は使わない。


 時計を見れば、応接室から出てちょうど十五分くらい、結構時間がかかったと思ってたけどそうでもなかった。アンナの手際がいいのと、あらかじめ服が決まってたからだな、きっと。


 椅子から立てばアンナに手首出してって言われたからその通りにすると、ぷしゅっと何かが吹きかけられる。甘いいい匂いがするので多分香水だと思うけど、買い物行ってご飯食べるだけなのにそこまでする必要ある……?


「さて、これで完璧。どこからどう見てもお嬢様は愛らしいですよ」


 あ、分かった。なんか私を見る目に既視感あるなと思ったら、こればーちゃんの恋愛スイッチが入ったときの感じか。なんか、生暖かい視線を感じならがら応接室に向かう。これが思春期ってやつなのかな?



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ