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15 お互いの勘違い

 

「やあ、レティシア」


 私、レティシア。今、婚約者が何故か応接室にいるの。私をここに呼んだ張本人であるラフィリアは「では、私はこれで」と出ていってしまった。


 ティーカップを手に持ちこちらに笑いかける彼は皮肉なほど絵になっている。さすがはヒロイン曰く、乙女ゲームの攻略対象者。私はその乙女ゲームやったことないけどなんか人気ありそう。でも、残念ながら私の好みとは違う。私の二次元における男の理想は筋肉がそこそこついた褐色肌の人だ。天然とかちょっと考え方がズレているとなおよし。

 アストリッド辺境伯とか好みドストライクなんだけど、残念ながらあの人は既婚者で私より一回り歳上である。恋とか愛に年齢は関係ないって?そんなの物語の中だけだと思う。


「突然来てごめんね?でもラフィリアから君が今日は朝から何も予定がないって聞いてたから」

「……だからと言って、なんの確認も無しに突然来るのは配慮に欠けるのではないかしら?もし私が急用を入れていていなかったらどうするつもりだったの?無駄足になっていたのかもしれないのに」


 そういえば、ラフィリアからここ一週間の予定を聞かれた気がする。またどこかに遊びに行きたいのかと思ったけどこれのためだったのか。そういやヒロインが言ってたけど、ゲームでは終盤の方に婚約破棄する為に私の家にヒロインと押しかけて罵詈雑言浴びせて来るって言ってた。

 あのヒロインの言ったことを鵜呑みするわけじゃないけど、王子と男どもがヒロインの言ってた通りになってたからな。今度家に来たら警戒しとこ。


「レティシアは優しいね。あと、そういう(・・・・)喋り方じゃなくて、君の自然体で話してほしいな」

「そう、ならお言葉に甘えて。今日はなんの為にここに?私と婚約解消したいっていう話しなら喜んで聞くけど」


 そう、本当にな。ヒロインのことがあろうがなかろうが、結局私は彼と婚約関係を解消したい。イグレシアスとマーティスという国内でも最高の家柄の結びつける縁談だということはちゃんと分かっているのだが、いかんせんルーカス殿下が公爵位を継ぎ魔道士団長を務める姿が思い描けないのだ。

 だって、なんか華奢だし。今目の前にいる彼と同じくあの方は線が細い。少し手首を握れば折れそうなのだ、ほんとに。多分ラフィリアと同じくらい華奢だと思う。


 魔道士は一見、力の強さなど関係ないように見えるが実はそうではない。魔力が切れたら回復するまで魔法が使えないので、そこが戦場なら一発で死ぬ。だから基本的に騎士と二人一組になって任務にあたる。しかし、それでも騎士の方が手がいっぱいで魔道士を守れないことがあるので私達は自衛手段を持たなければいけない。

 その点でアストリッド辺境伯はとても素晴らしい。均整のとれた筋肉に、逞しい二の腕。身の丈はあるだろう長い剣を自由自在に扱う彼は王国の騎士や魔道士の尊敬の的なのだ。


「うーん?婚約解消なんて絶対しないしさせないよ?今日は別件で来たんだから、ちゃんと聞いてほしいな」

「そう。ならネムレストの第七王子のことかな?彼が何か重要なことでも吐いたのかい?」


 あの私のメンタル(こころ)に深い深い傷をつけた奴のことだ。傍から見るとただの変態でも第七王子なのだから、そう簡単に重要なことは吐かないはずである。

 あの時の変態を引きずっている姿を衆人に見られたことの羞恥心を私はまだ忘れていない。きっとこれも未来の戦力にトラウマを埋めつけてしまおうという策略に違いない。


「そうなら普通にマーティス公から話が行くはずだよ。そうじゃなくてね?」


 嬉しいことにそうではなかったようだ。ならなんなんだと考えてみるが、素行優良な彼に特に悩みなどあるようには思えない。……いや、今は天下の夏休み。学生達が今現在苦しめられているアレかもしれない。


「悪いけど、夏期課題なら貸さないし貸せないよ?まだ私も数字学と研究学は終わっていないのだから」

「いや、別にそんなことは頼まないよもうほとんど終わってるし。……君の中での僕ってどうなってるの?」


 なんだと?まだ夏休みが始まって二週間とちょっとしか経ってないのにもう終わりかけてるだと?偉すぎかよ、前世の私は最後の三日で答え丸写ししてたわ。あ、もちろん今世ではしてない。そんなことをしなくてもいいほどに両親の優秀な頭脳が遺伝したし。

 ただ、前世の内容とだいぶ似ている数字学と研究学は苦手だ。この世界でも二人は目的地が一緒なのに別々の時間に家を出るし、点Pは動くし、兄弟は池の周りを違う速度で走る。面倒くさいったらありゃしない。


「私の中での貴方、ねえ?……黙秘権を行使するよ」

「つまり、高確率でよく思われてないってことだよねそれ。君が僕のこと嫌いなのは知ってるけどさすがに酷くない?」


 彼の言葉を聞いて、はて?と首を傾げる。何か勘違いしてないだろうか。私は別に彼のことが嫌いなわけではない。むしろ……


「私を嫌ってるのは貴方の方じゃないのかい?婚約当初にあんなことを言ったから当たり前だと思うが」

「いや、僕別に君のこと嫌いじゃないよ?むしろ普通に好きだよ?え、誰から聞いたのそれ」


 え、なに、嫌われてないの?普通に考えてあれくらいの年齢の子はあんなこと言われたら「もう嫌い!縁切った!」ってなると思ってたのに。


「普通に自分で考えたけど、貴方の行動を見るに嫌われているのは確実だと思うけどな」

「えー……なにそれ。僕がこの六年間頑張ってきた意味って……」


 あーもう最悪だ。と顔に手を当てて上を向いているが、私には全くもって状況が理解出来ない。一体何があった。お互いに嫌われてると思ってたのを誤解が解けてやったねって笑って友達付き合いを始めるのがセオリーなんじゃないのか。とりあえず、なんか声かけようと口を開いたら向こうが先だった。


「単刀直入に言うね?……僕と逢い引きして!」


 一瞬……というより、しばらく固まる。そして、ようやく口に出た言葉は最悪なものだった。


「…………は?」



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