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14 魔犬のジョヴァンニ

 

 これはやばい逃げろヒロイン。


 ラフィリアの顔を見て柄にもなくそう思ったが、意外にもラフィリアはそのあとニッコリと笑顔になりこう言った。


「あら、あなたこそ可哀想だわ。そうよね、庶民なのだから"自分の権力"で貴族向けの店を貸し切るなんて不可能だもの。そんな惨めな気持ちを隠そうと殿下に頼んだのでしょう?」


 そんな、なんでもないように嫌味を言った。申し訳なさそうに思ってるのに聞く人が聞けばうわっ、きっつい罵りぃ〜とでも言いたくなるような内容である。


 ただそれだけを何も考えずに聞けば「自分自身の権力で店を貸し切りに出来なくて可哀想に」という嫌味なのだが、本当の意味は「うわー、庶民がなんか言ってるけど私根っからの貴族だからよく分かんなーい。せめて一般常識くらい覚えてきて欲しいのだけど、無理か。だって自分のことで手一杯だもんね」と嘲笑っているようなものなのだ。


 貴族子女がこれを言われれば意味を直ぐに理解し、顔を羞恥によって赤くして走り去っていくのだが、残念なことに相手は脳内お花畑のヒロインである。当然意味が伝わるわけがなかったが、貶されてるというのは分かったらしい。


「惨めなんかじゃありませんしぃ?ラフィリアさんこそ、第二王子様に構ってもらえなくて嫉妬してるんじゃないですかぁ?」


 こいつ、ラフィリアの今一番触れられたくないネタに触れやがった。これはさすがのラフィリアでも顔に青筋くらいは……と思ったが、先程の笑顔は継続中らしい。

 しかも、ヒロインの煽りを「え?今なにか言いました?」とでも言うようにスルーしている。


「さて、お姉さま。用事は済みましたから帰りましょうか。ジョンの餌やりをしなくてはいけませんもの」


 そしてヒロインと王子など最初からいなかったかのように扱っている。こうなればもうヒロインが煽って来ようが見下して来ようが反応することはないだろう。しかし、それでも馬鹿を相手にして疲れたらしく癒しを所望している。


 ジョンはラフィリアが幼い頃に拾ってきた子犬だ。しかも魔犬だったらしく、魔力を注げば注ぐほど大きくなっていくので今では普通に軽自動車くらいの大きさになっている。これでもまだまだ子犬だと言うのだから、魔法の世界はよく分からない。

 ちなみに、いきなり子犬拾ってきてよく認めてもらえたなという声があるかもしれないが、私の幼い頃のやらかし具合を考えれば子犬一匹養うことなど大したことではなかったらしい。手のかかる娘でごめんよ。


 意外にもヒロインはそれ以上なにも言って来なかったため、普通に家に帰った。

 買った物の合計金額を見れば、回らないお寿司を四人家族がお腹いっぱい食べれるくらい使っている。貴族の金銭感覚って恐ろしい。


 ラフィリアは宣言通り庭へ出るとジョンを呼び、コックからもらった肉の塊をお皿に乗せ置いた。

 するとどこからともなく遠吠えが聞こえて、ビュンッという音がしたと思えば目の前にジョンがいた。ちなみに、ジョンと言う名前はあだ名で本当はジョヴァンニという。


「久しぶりねジョン。四日ぶりくらいかしら?」


 ジョンは同じ屋敷内にいたとしてもなかなか遭遇することがなく、ラフィリアが呼ばないと出てこない。私が、おーいジョーンといくら叫んでもジョンはしっぽすら見せないのだ。

 そんなジョンだが、見た目は全身柔らかいモコモコの毛に覆われており「きゅぴー」と鳴く。ここだけ聞けば可愛い小動物だが、実際は軽自動車サイズの鋭いキバのあるメドゥーサ犬である。


 薄紫色の体毛には猛毒が、赤い瞳は見るものを石にし、鋭いキバで獲物を噛み砕く。


 まだ小さい子犬のうちにラフィリアがジョンを拾っていなければ、今頃は討伐対象として殺処分されていた可能性もゼロではない。

 "魔"が付く生物は本来は忌み嫌われ、森の奥に追いやられていた存在である。理由は人を襲うから。恐らく魔族と言う種族があったなら、人間同士で戦争なんてしないできっと手を取り合って魔族を打ち倒そうとしていたのだろう。


 しかし、今の人間はそんな"魔"の付く魔法という行為に頼りきっている。今思えば、ゲームでは魔法を使って魔王を倒していたりしたが、それに抵抗はなかったのだろうか?てか、まず魔王とはなんなのだろうか。

 もし、ここがヒロインの言った通り乙女ゲームの世界だとしたら。前世にはなかった魔法というものがある世界なら、魔王という概念がない今の世界でもいずれ魔王と呼ばれる存在が生まれるのではないだろうか。


 ……やっぱりやめよう。こんなこと考えてたら明日からの鍛練に支障が出る。今の国の目標は敵国であるネムレストに勝つこと。今居ない魔王のことを考えるより、そっちのことを考えていた方が気が楽だ。



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