11 妹と街歩き
学園で一悶着あったものの、無事に出かけることが出来た。ヒロインと王子が突っかかって来たのは、先生が「おいうるせえぞさっさと帰れ」って全員教室から摘み出されたので大事にはならなかった。
今のところヒロイン達と鉢合わせすることなく、実に穏やかなショッピングを楽しんでいる。
ただ、なんというかラフィリアのお忍び中の令嬢です感が凄い。そして、私のそのお嬢様の護衛です感が凄くてなんかお忍びが出来てない。支離滅裂過ぎて自分が何言ってるかよく分かんないけど、街を歩いてたら視線をめっちゃぐわって感じる。
そりゃそうだ。ラフィリアはもの凄く可愛いし目立つ。そして、私の容姿もヒロイン曰く悪役令嬢と言うからにはそこそこ顔面が良くないと困るだろうから、整ってる方だと思う。
「それでですね……お姉さま、聞いてます?」
「ん?ああ、ちゃんと聞いている。ファーティアに留学中のルーカス殿下の話だろう?」
「ええ、最近ルーカスさまからの手紙が来ないのです。何かあったのかしら……?」
ファーティアとはネムレストと反対側の隣国で、宝石などの鉱石が特産物で、うちの国の鉱石の実に六割を占めている。ちなみに残りの四割のうちほとんどはアイリス嬢の実家だ。アイリス嬢の実家と言えば宰相の息子の実家でもある。つまり、アイリス嬢とコーデリア嬢は将来義理の姉妹になる予定なのだ。
「お祖母様か父上なら何か詳しいことを知っているかもしれないね。今日帰ったら聞いてみようか」
「そうですね、忙しくて手紙を出す暇がないだけだといいんですけど…」
ルーカス殿下は馬鹿王子と違って聡明な人だと思う。第二王子で私達より二歳年下だが、学園入学前に自分にできることをやっておこうと言って他国に留学するのは好感が持てる。
この人がラフィリアの婿に来るなら私は全力で魔道士団長の座を勝ち取ってラフィリア共々養うつもりなのだ。
「まあ、秋には帰ってくると仰っていましたし。今考えても仕方ないことですね。今はせっかくお姉さまといるのですから」
そう言うと、ラフィリアは残りの紅茶を一気に飲み干した。今いるのは最近流行りだというカフェ。歩きっぱなしだと疲れるし、お昼ご飯食べて来てないからな。
「そう言うわけでケーキ、もう一つ頼んでいいですか?」
もう既にカロリー高めのチーズケーキを食べ終わっているが、ちょっといっぱい食べたいお年頃なのだろう。いっぱい食べる君が好きとも言うし、あと単純に食べてる妹は可愛い。
「もちろん、好きなだけ注文していいよ」
カロリーなんて気にしては負けである。これからお目当ての店に行くまで歩くんだから、それで相殺だ。あと、前世ではこの年代の女の子はダイエットをしがちだが、今世ではふくよかなのは富がある証拠なので何も問題ない。コルセットの締め付けってなんか矛盾してるよね。
ラフィリアがケーキを食べ終わったら支払いをして出発だ。さすが庶民向けのお店、美味しいのに財布に優しい。普通のご令嬢であれば物足りないのかもしれないが、元一般庶民にとってはむしろちょっと贅沢をしている気分になる。
だって、前はわざわざカフェとか行かなかったもん。バリバリの水泳選手でバリバリのオタクだったもん。スイーツなんてスーパーで売ってる値引きのやつで良かったし。
そして、店に着いたらなんかラフィリアが凄かった。店員さんがお客様がラフィリアだと分かった瞬間店長を呼びに行った。そして、その店長さんの震え方も凄かった。
「いらっしゃいませ、お客様。まさか貴族のファッションリーダーとも言われるラフィリア・マーティス様がこの店にいらっしゃるとは夢にも思いませんでしたが」
そう、まさかの一瞬でバレたっていうね。一応はお忍び中なのに。それだけラフィリアの顔が広いってことだから気をつけとかないといけない。ラフィリアが誘拐されたら色々とやばいしな。家の外聞とか母親の精神的負担とか、色々と。
「気にしないでちょうだい。元々お忍び中だし、ただ単に買い物に来ただけよ」
「そうでしたか、ではごゆっくり」
そうだよね、特別扱いなんてしなくてもいいんだよね。貴族だから貸し切りにしろ!って言う人とかを小説とかで見たことあるけど、さすがにアポ無しでいきなり来てそれは横暴すぎる。なら普通に行商人を家に呼べって感じだし。
「護衛の方はこちらへどうぞ」
店員さんが気を聞かせてくれたのか、護衛扱いされてるらしい私に店の全体がよく見渡せる場所に椅子を置いてくれた。私、最新のファッションなんてよくわかんないし、ラフィリアも私と服見てもつまらないだろうからお言葉に甘えることにする。
「あら、駄目ですよお姉さま。今日はお姉さまの服を選びに来たんですから」
椅子に座ろうとすれば、ラフィリアからストップがかかる。そして、店員さん達からは「えっ」との声が。うん、まさか誰もこんなキツそうな見た目の人があの可愛いラフィリアの姉だとか思わないよね。私はお茶会とかもあんま出ないし。
店員さんの顔が真っ青になってしまった。そりゃそうだ。公爵家のお嬢様を護衛と勘違いしたんだから大層失礼なことをしてしまったと気に病むことも致し方ない。
「ラフィリアは私の服を選んで楽しいのかい?せっかく普段は来ないような所に来たんだから、自分の好きな服を好きなだけ選びなさい」
店員さんのフォローとして、私は服に無頓着と言うことと、今の今まで自分の服を選ぶなんて知らなかったですアピールをする。自分の服を選ぶなんて知らなかったのも、服に無頓着というのも事実だけど。
「駄目です。わたくしはお姉さまに着飾って頂きたいのですから、似合う服の系統を今から理解してもらわないと困ります」
ラフィリアのニコニコとした既視感しかない顔に悪寒を感じる。これはやばいやつだ。放課後のお茶会でのアレに似た顔である。今すぐに逃げたくなるが、残念ながらここは店内だし、父からはラフィリアをしっかりと守れと言われているので目を離すことは出来ない。
つまり、私はラフィリアの着せ替え人形になるしかないのである。やめてくれ、ジャージ人間には身が重い。私の切実な願いは妹には届かなかった。