1 ヒロインからの宣戦布告
「レティシアさん!私、負けませんから!ノアくんに嫌がらせする貴方になんか、絶対負けませんから!」
おーっとヒロイン選手、ルート分岐で次期騎士団長のノア・イグレシアスを選んだようだ。
つまり、悪役令嬢は私。
と言っても、悪役令嬢って言うのは私の前世での言い回しであって、正式な婚約者は私だから何も問題はないんだけどね。
突然だが私、レティシア・マーティスには前世の記憶がある。
両親や妹には頭の健康を疑われてしまうので決して言えないが、前世の私は地球の日本という場所で元気に水泳を楽しんでいた。
そうは言っても前世の記憶というのは断片的なもので、私は温水プールで今となっては考えられない露出度の競技用水着を着て、バッシャバッシャとバタフライしてたことくらいしか覚えてない。
あと、ゲームしてお風呂入って美味しいご飯をたらふく食べたことくらいである。基本自分中心で、興味がなかったことはなんにも分からなかった。
つまり、私の前世は水泳選手だったんだろう。
今世は水着なんてもの来たら露出狂扱いされて一発アウトである。なんせ、中世ヨーロッパ的な世界観なのに前世ではありえない獣人や精霊が見える色々とおかしい世界なのだ。
魔法あるし、薄い板みたいなステータスあるし、魔物っていう名称の生物がうようよ出てくるし。
元一般市民の私には色々とキツい。こういう剣と魔法の世界は客観的に見るから楽しいのであって、実際自分が体験するとなると相当大変なのだ。
まず、定番のRPGの世界で魔王を倒すなんて願望。ハッキリ言って無理である。伝説級の武器を運良くドロップ……なんていうのはゲーム内だけだ。なんで伝説って言われてるのかよく考えろ。
あと、この世界に魔王はいない。そんなのがいるなら国家同士の戦争なんて起こってない。
そして、王子様とのシンデレラストーリー。ハッキリ言わなくとも無理である。よく考えなくても分かるだろう。
なんで一庶民が一国の王子と結婚できるんだ。もし仮に王子と恋仲になったとしても、結ばれることなどヒロインが大貴族の隠し子でもない限り不可能に等しい。妾ならギリギリいけるかもしれないけど。
さらに、運良く貴族に生まれたとする。実体験に基づいてハッキリと言うが、苦痛でしかない。
え?貴族だからある程度贅沢できるだろだって?中世ヨーロッパと現代日本の生活水準を比べてみよう。データを見るまでもなく、現代日本の生活水準の方が高いに決まっている。
車なんてないし、食事の味付けも薄い、テレビもスマホもゲームもない。
極めつけには社交界入りへのダンスレッスンやコルセットの締め付け、前世では経験してこなかったこともここではさも当然かのように行われる。
もう一度言おう、苦痛でしかない。
「……お姉さま?レティシアお姉さま?」
おっと、呼ばれていたらしい。
ヒロイン(笑)さんのせいで思考が変な所に飛んで行っていた。
「ごめんね、ラフィリア。少し考え事をしていたよ」
先程から私に話かけて来ていたのは妹のラフィリア。私の双子の妹で、私が悪役令嬢で失敗すると妹共々貴族位剥奪のバッドエンドになるらしい?
「やっぱり、さっきの無礼者の事を気にしているのですね?お姉さまのあまりの美しさに嫉妬した庶民が」
「こらこら、ラフィリア。彼女は貴族生活になってからまだ日が浅いのだから、分からなくても仕方ないよ?私は気にしないから、ラフィリアも気にしては駄目だ」
これまでの会話でだいたい分かったかもしれないが、私は魔道師団長の娘という大貴族かつある程度強キャラ位置についてしまった。
のだが、跡取り娘の筈である私には何故か婚約者がいる。しかも、次期騎士団長の。つまり、私は結婚したら相手の家庭に入らなければならないのだ。
当時、何も知らなかった私は駄々を捏ねた。
その時は父の跡を継ぎ、ラフィリアの婿共々養っていくと本気で思っていたのだ。
そんな私が婚約者のことを好きになれる筈もなく、「わたしはお父さまの跡を継ぐのだから帰って!」と厳しい言葉で毎度彼を追い返していたものだ。
彼は毎日うちに来ていたが、そんな事を毎度毎度言われれば私の事を嫌いになるだろう。いつしか彼がうちに通う頻度が一週間に一度になり、彼は理由を「勉学と鍛練が忙しくなったから」と言っていたが、今なら分かる。確実に私に会いたくないからだ。
うん、私が悪役令嬢と言われる理由も分かる気がする。
ヒロイン(笑)さん曰く、ここは乙女ゲームの世界で私は悪役令嬢らしい。初めて聞いた時は、あーなるほど。だから地球にいなかった生物がいるのかーって感じで受け流していたのだが、ちょいちょい耳を傾けると、何故か私がラフィリア共々貴族位を剥奪され国外追放されるという言葉が聞こえたので真剣に聞いてみた。
この世界は、らぶまじ?という乙女ゲームの世界で、彼女はヒロイン、私は悪役令嬢らしい。らぶまじの正式名称はラブラブマジカルだろう、きっとそうだ。
私、乙女ゲームはやったことないけど悪役令嬢は知ってるぞ、アニメとか漫画に出てくるちょっと鬱陶しい噛ませ犬役だろ?解せぬ。
この世界には悪役令嬢が複数人いるらしく、ヒロインさんはご丁寧に悪役令嬢全員に「貴方は悪役令嬢、私はヒロイン」という説明をしていたらしい。
ちなみに、私はヒロインがノア・イグレシアスを選んだ際に噛ませ犬として恋の障害になるらしい。
その時のシチュエーションを聞かされたんだけど、そんなアホらしいことなんでしなきゃいけないんだと毎回思った。
トイレに入ってるヒロインに汚ったない水をぶっかける。ヒロインの弁当をゴミ箱に捨てる。ヒロインを校舎裏に呼び出して「庶民である貴方はあの人に相応しくない!」と頬を叩く。
その悪事を暴かれた悪役令嬢は相手に婚約破棄されて国外追放、貴族位剥奪のバッドエンドらしい。
でも、まずしないな、こんなこと。
なんだ、汚い水ぶっかけて弁当ゴミ箱に捨てるって。そんなのただのいじめじゃないか。ヒロインは知らないかもしれないが、学園での評価は卒業後もずっと付いて来るんだぞ。誰がそんな分かりやすく、自分はいじめっ子ですーって宣言するんだ。
あと、多分庶民をいじめたくらいで裁かれることはないと思う。だって貴族様だし。
ただ、ヒロイン(笑)さんはノア・イグレシアスが私を捨ててヒロイン(笑)の方に行くと思っているらしく、冒頭のセリフをなんの前触れもなく私に言って来たのだ。
一つ言わせて欲しい。
私が悪役令嬢だからって、婚約破棄の原因は君たちの浮気になるから結局は親に怒られて勘当されると思うよ。
ちなみに、私はそれでも全然いい。私は彼と結婚したくない。ヒロイン(笑)さんが彼を籠絡して婚約破棄突きつけられても別にいい。彼の心中は分からないが、彼が私を嫌っているのは事実である。
ただし、いくら私が悪役令嬢になったからと言っても破滅するとは限らないんだぞヒロインさん。