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一章 人喰イギロチン 第五話


    × × × ×


「ちょっと……どういうつもりよ……!」

「どういうつもりって?」


 とりあえずガバメント持ったまま愛銃を探す。え~と、位置的にはそんなに遠くはないはずだから多分この辺にあるはず………って、あったあった。

「だからどうして殺さないのよ!? 殺そうと思えば殺せたはずでしょ?!」

「死にたかったのか? だとしたらごめんなさいだな」

 あ~あ、こりゃ駄目だな。弾倉の底面がぶっ壊れて歪んじまってる。弾倉抜ければいいんだけど……無理か、抜けやしない。柊工房行きだな。

「そうじゃない! 殺し合いしたのよ?! で、私は負けた! 負けたなら、死んでなきゃ嘘でしょ!?」

「そっちにとっちゃ殺し合いでも、俺にとっちゃそうじゃない。だったら死んでなくて正解じゃねぇか?」

 ってよく見りゃ衝撃でスライドがズレてやがる。結構高い銃だったのに……もうお釈迦かい。

「あ~もう! わけわからないこと言わない! 一発も喰らってないのに戦闘終了なんて、そんな馬鹿な話――――」

「まったく………」


 わめき続ける少女を遮り、俺は少女へ銃口を向けた。

「だったら、今ここで片付けてやろうか?」


 目に出来る限りの狂気をたたえ、全身から今まで溜め込んだ死を放射する。その結果は予測可能。今までずっと無数の殺人気相手に使ってきた技だ。たとえ向こうがNASでも、

「っ………」

 ビビッて、動けなくなる。

 向こうの思考回路が手に取るようにわかる感覚。単純だ、向こうは知りたいことがある。たとえ何人殺したとしても、たとえ自分が殺されかけたとしても知ることをやめないでいられるに足ることを知りたいと願っている。だからこそ、ここで口でなんと言っていようとも、その本心では生きることを望んでいる。死ぬことを、望んでいない。

 だから、ここで生か死かの選択肢を突きつけてやれば、


「……………撃てば……いいじゃない」

 沈黙するか、力弱い強がりを言い放つか。

 そのどちらかしか、とることが出来なくなる。

「ええ、今すぐ撃ちなさい。そのつもりがあるなら。私は負けた。あなたに全力で魔眼まで使って、その上で全部無力化されて負けた。だったら――――」

 あれ? ちょっと責めるベクトル間違えたかな? 少女の声の中に涙の色が混じり始め、表情まで悲壮で濡れている。

「今すぐ撃って……終わらせなさいよ…」

 声音どころか、瞳にまで涙が滲み始めて――ってか滲んでるな、もう。

「こんなんじゃ、実力不足にもほどがあるわ……ここで生き延びたとしても単なる学生NAS程度に負けるようじゃ、NAS続けたってここまでどまりがいいとこじゃない。だったら、生きてても――――」

「あのなぁ、自信喪失させたなら謝るけど………」

 ちゃかり。軽い音を立ててガバメントの銃口を上へと反らし、さりげなく胸中のホルスターに収める。

「俺、別に普通の学生NASじゃないから」

「え……?」


 少女から視線を切り、その背後、そこに落下している二本の西洋剣を拾い上げる。って妙に軽いな。切れ味重視で西洋剣なのは外見だけ――――ってとこか。それよりいい仕事してるな、この鍛冶師。

「学生NAS、じゃないの………?」

「ああ。NAS特待生」

 ちなみに『学生NAS』は『NAS養成科に所属し、軽度ながらもNASとしての権限を持っている人間』のことで、『NAS特待生』は『NAS養成科から入学要請があり、それに応じた若年NAS』のことである。同じような言葉だが、中に詰まっている重みは段違いで当然ながら実力はNAS特待生のほうがなのだ。


「特待生……でも私、B級以上は全員マークして……」

「あ、そりゃ引っかからねぇよな。俺、C級」

「はぁ?!」

 奇天烈な声をあげる少女。なんだいきなり。耳にちょとキたぞ!

「冗談でしょ? あんた、自分の言ってることわかってんの?!」

「そんなに奇抜なこと言った覚えはないんだが………」

「い~え十分奇抜でしたとも! いい!? NASのランクは実力の認識票なわけ! で、その実力の測定法は仕事! 今までこなした仕事の難易度! 殺害した殺人者の数! 仕事の速度、使用した弾丸数に殺害状況! こういうのを加味してランク付けされてて、低級な仕事ばっかりやっててもランク上がるようになってんの!!」

「知ってる」

「つまり! NASにおいては実力=ランク! これだけ精密に測られてるんだから、それが覆ることなんてまずないって言っていいわ! だけど! それで! C級のアンタが! B級のあたしより! 強いなんて! どういうことよ!?」

 そんなに語気を荒げるな。将来のお肌に悪いぞ。それに俺の耳にもよろしくない。

「どうって……俺、めんどくさくて仕事サボってるし」

「はぁ?!」

 心底あきれたような声音。まあ、真面目にやってて理解できるほうがおかしいだろう。京みたいにそれが気に入らなくて追っかけてくる奴までいるぐらいだ。

「だから、お前の言ってる『実力=ランク論』は真面目に仕事やってる場合の話だろ? 難易度適当で能力使わず撃ちまくってのんびりやってりゃ、実力あってもランクはつかねぇんだよ」


 ランク上げても資金力上がったり武器良くなったり情報掴みやすくなったりする程度だし。俺損なのに興味ないし。今での余るほどの金はあるし、武器はこれ以上要らないし殺人公社の回してくる奴ってみんな質微妙だし。

「けどま、怪しまれたりなんかしたら後者のほうが面倒な仕事、ランク偽ってまわしてきたりするから適度にやっとかねぇと逆に面倒なんだけどな」

 それでも一応努力の甲斐あり、Level59 C級NASってとこで落ち着いている。あと一個でも上げればB級、大半が三桁の数を殺していると言う人外魔境の領域に入ってしまうとんでもなく危うい場所だ。あげないようにするのも、下げないようにするのもとてつもなく面倒くさい。


「………なるほどね…」

 額に手をやり、やれやれとでも言うように少女が首を振る。

「そーいや情報収集の時に聞いたわ……硲学院のNAS養成科のサボり組の中にA級とタメ張れるくせにC級で満足してる変り種がいるって……それ、アンタのことでしょ?」

「ん~、一応俺、その半分」

 もう半分である投げナイフ使いで万能超能力者な俺の友人は今頃夢か、情報戦のどっちかの中にいるはずだ。

「まったく――――とんだジョーカー踏んじゃったもんね、あたしも……」

「でもそっちだっていい腕してたぜ? あれと匹敵するような双剣使いてったら孤児院でやりあったのが最後だし」

 あの双剣双銃使いの要さんも結構な練度で使ってくるが、双剣だけに限ればアレ以上に出会ったことはない。勝てたとはいえ、今までで戦った双剣使いとしては間違いなく最強だろう。


 ってそういや、双剣返してなかったな。

「ほら、お前の剣。いい腕してんだ、得物は大…事に――――」

 ん?

 双剣の柄に、刻印?

 しかも……なんだこれ。

 めちゃくちゃ、見覚えあるぞ?


「………どうかした?」

「…いや――――」

 待て待て、見れば見るほど見覚えがある……ってかこれ。

 ポケットから自前のバタフライナイフを取り出し、展開する。

 体の一部としか思えないほどの一体感を持つグリップ、握っていることに気付かないほどこなれた重さ。八センチほどの刀身と、それとほぼ同じ長さを持つ漆黒のグリップ。そしてブレードとグリップの境目辺り、金属の輝きを持つ刀身の末端の辺りに、その刻印はある。

 陽炎を思わせるおぼろげな時計と、その内側を刻む七本の針。

 変形した時計を思わせるその刻印は、俺の育った孤児院がシンボルとして掲げていた紋章である。その紋章が俺のナイフにあるのは、このナイフが孤児院から出る際に院長さんからもらったものであるから。つまり孤児院製だからだ。

 その刻印がここにあると言う事は、つまりこれも孤児院製で…………


「なあ、」「ねぇ、」

 ジャストタイムで声が重なった。

「ひょっとしてお前、惨劇孤児だったりしないか?」

「まさか、あんたも惨劇孤児?」

 少女の目が、俺の手の中のナイフに釘付けになっている。当然俺の目も少女の双剣に釘付けだ。

「で、入った孤児院に時計塔あったりする?」

「する。ボロボロで肝試しスポットになってたやつが。で、地下にはシューティングレンジ」

「あったあった。100m級の奴まで」

「『体を動かす』の名目で毎日ナイフ格闘とか近接格闘とかやらせてて――――」

「模擬弾での撃ちあいもありで――――」

「木製武器の取り合いもやってて――――」

「で、全員が妙に強い」


 少女と二人。どんどん情報が一致する。

「そん中でやたらと可愛げのない男の子、いなかったか?」

「その男の子に挑んでってはあしらわれる女の子もね」

「男の子のほうはナイフ使いでいっつも面倒だからって女の子あしらって、」

「あしらわれるのが気に入らないからって、女の子はいっつも挑んで、」

「挑んでは負けるもんだからいつの間にか孤児院でも最強になってて、」

「最強になったからって満足できずに挑み続けて、」

「挙句の果てにはNAS試験に中学生で合格して、」

「そこでもやっぱりその男の子に負けたからって気に入らなくて、」

「でも連絡ないし孤児院には顔出さないからって不快感溜め込んでた、と」

「で、当の本人がなにしてたかっていったら硲学院でサボり組――――ね」


 そこで俺たちは一度、顔を見合わせた。

 あの距離、あの光度ではわからなかったが、確かに面影がある。最後に会ったのが中学入りたてのころ、俺が姉さんに引き取られるその直前のことだ。成長期をはさんでいるとはいえ、良く見ればわからないどころの話ではない。

 こいつは、まったく変わっていなかった。負けん気の強そうな顔も、肩口までの髪も、特徴的な紫の目も、何もかもが、あの孤児院での別れの日と変わらない。

 懐かしい。

 本当に懐かしい、顔だ。

「くっ……くくくく……………」

「ふっ……ふふふふふ…………」

 顔を見合わせながら、お互いに忍び笑いをもらす。第三者が見ればすこぶる奇妙な光景に遷るだろうが、そんなことを気にしていられる気分じゃない。

 今は、笑いたい。

 四年ぶりの、再会を。

「はっ、はははははははは!!」

「あはははははははははは!!」

 二人して、心の底から大声で笑う。両手の武器がすこぶる邪魔だったのだが、そんなことが差さくぃなことに思えてくるから不思議だ。これだから友との再会は楽しいのだ。些細なことなど、頭から吹っ飛んでしまう。


「ふっ、くくくく―――――久しぶりね、ナギ」

 ひとしきり笑った後、瞳から笑いによる涙をこぼしながら少女が、かつての友が言う。

 俺はそれに対し、くるりと双剣を回転させ柄を差し出しながら、

「はっ――――そっちこそ」

 かちゃり。バタフライナイフを納刀し、


「四年ぶりだってのに、元気そうじゃねぇか。時噤ときつぐみ萌木もえぎ


 俺の言葉に眼前の少女、萌木はくゆりと笑みを見せ、双剣を納刀し、

「ええ、おかげさまでね。積もる話もあるだろうから、どっちかの家でジンジャーでも飲み交わしたい気分よ」


    × × × ×


「よく来たな、《奇想曲》」

 古びた雰囲気を持つ広大な食堂に、その声はよく響く。

 悠久の時を経てなお、持つものの権威とその建造物の価値を突きつけるかのような、広大な食堂。教会を思わせるステンドグラスを正面にする出入り口からは、配置された長机の椅子に対応するかのように象徴的な絵画がかけられ、この場に呼び集められるものたちの立場を指し示す。わずかな蝋燭と、灯った暖炉の明かりのみが照らしあげるその食堂は、神秘的と表現するかよりは幻想的と呼んだほうが相応しい。

 そんな場所だからこそ、


「よく来たな、じゃねぇ。何なんだよまったく――――てめぇの仕事片付けてやった直後にこんな山奥まで呼びつけやがって……こき使うのも大概にしやがれってんだ」

 ステンドグラスの正面、樫の木で出来た両開きの扉の正面に立つ、Yシャツエプロン咥えタバコの中年男の姿は、とてつもなく浮いていた。

 長身痩躯のその男は不機嫌そうに咥えタバコを上下させ、

「で、今度は何だってんだ? またさっきみてぇに年端もいかねぇガキの始末か?」

「そう急くな、《奇想曲》。せっかくの晩餐なんだ、まあ座れ」

「お断り、と言いてぇとこだが、」

 男、《奇想曲》は不機嫌そうに顔をゆがめたまま一歩前へ踏み出し、

「座らなきゃ、話進める気はねぇんだろ。――――《魔女》」

 その言葉に、食堂の最奥に腰掛ける人物が表情を変えた。

「その通りだ、《奇想曲》」

 心から邂逅を楽しむような姫君、処刑を娯楽として楽しむような女帝、その双方を併せ持った究極ともいえる笑みへ。


「晩餐の用意は出来ている。のんびりと食事を楽しみながら会話を進めようではないか、《奇想曲》」

 尊大な口調で言いながら手元のベルを打ち鳴らすその姿。

 それは、少女。

 純白の長衣、銀を思わせる白髪、整った造型、すらりと長い手足。それらすべてを集約させ、王の気迫を足したかのような、『女性としての完成形』たる少女の姿。

 名を、《魔女》と言う。

「身勝手な奴だな、《魔女》」

 言いながらも《奇想曲》はテーブルの手前、《魔女》から一席間隔をおいた席へと座る。

「本題だけでいい、話せ。仕事だのなんだのは食いながらだ」

「うん? なんのことだ?」

「とぼけんじゃねぇ。あるんだろ? 他の『公爵家』にゃ聞かせたくねぇ、俺にだけ話さなきゃならねぇ様なことが」


《奇想曲》の言葉に、魔女は喉の奥から忍び笑いをもらした。

「……鋭くなったじゃないか《奇想曲》。二十年前が嘘のようだ。――――そう、確かにお前にだけ話したい、お前だけが知っていなければならない情報はある」

「ならさっさと話せ。俺ぁそんな暇じゃねぇ」

「なら端的に言おう」

 言って魔女はその目を天井へと向けた。

 天井、そこにあるのは樹形図のようなものである。ある一箇所から始まった点は途中から大きく二つに二分し、そこから更に幾つもの分岐先へと分かれていく。

 そしてその末にあるのは、箇条書きにされた文章。

『Index』。

 そこには、そう記されている。


「『出合った』ぞ、《奇想曲》」

「! まさか……」

「ああ、そのまさか、だ。《ゼロ》、すべての始まりであり終わりである存在が、ようやくスタート地点に到着した。いよいよ始まるぞ、《奇想曲》。すべての死と、過去の記憶を清算する、終わりまでの道行きを記した物語が。今日を始まりとし、すべては動き出す。今日のためにばら撒いたすべてが、上手く回り始めるんだ」


 笑みのまま、《魔女》はテーブルの上に存在するワインへと手を伸ばす。すでにデキャンタに収められているそれを、《魔女》は自らの前と、《奇想曲》の前にあるグラスへと注ぎ、


「さあ、乾杯だ《奇想曲》。お前も私も、ようやく始まりの位置へ立てたのだ。祝わぬでどうする?」

「…………」


 言われるがまま、《奇想曲》はワイングラスへと手をかける。《魔女》は眼前のグラスの足を手に取り、


「すべての、第一章の開幕に!」


 何かの開始を宣言するかのように、

 あるいは、何かの開幕を予兆するかのように、

《魔女》は己が手の内のグラスを、天へ向かって掲げた。

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