救星の勇者 ガーディアス
※第四回書き出し祭りに投稿した、第四会場の『星の勇者』を加筆修正したものになります。
街が燃えている。
見渡す限り赤が視界を支配している。
たった一時間前まで変わらぬ日常を描いていた街並みは、見るも無残な姿となっている。立ち並ぶビルの窓ガラスはすべて砕け落ち、そのビルも大半が崩れ去っている。
あらゆる場所で非常ベルがむなしく鳴り響いている。しかし避難を誘導する声も、救助へ向かうサイレンも聞こえてはこない。
その街にただ一つ異形が姿を現す。
お椀をひっくり返したようなギョロリと飛び出た目を持ち、大きく裂けた口からは不揃いで鋭い牙が見える。生物のような特徴を持つが体表は金属質で、油膜で覆われたように淡く虹色に濡れる。
体高は十階建てのビルをも超えていた。重そうな自重を太い脚と尻尾で支えている。陽炎が発生しているのか、時折異形が霞んで揺らぐ。
その異形は一歩一歩大地を砕きながら更なる破壊を生み出そうとしている。無作為な破壊を生み出していた巨体は、今何かを目標に進んでいる。
「はっ、はっ、はっ、」
異形の進む先に無我夢中で走る少年が一人。髪は乱れ、服は汚れている。辺りには煙もたちこめ、脅威から離れるよう必死に走り続けているが、見るからに限界は目前である。
「なんで゛……、どうしてっ、」
ついには捲りあがった道路に躓き、アスファルトへ飛び込むように転んでしまう。手をすりむき、顎を打ち、足をくじく。今まで保っていた緊張の糸も切れてしまう。痛みの余りうずくまり、体はもう動かせない。
絶体絶命。
顔は鼻水と涙でぐしゃぐしゃになり、恐怖でのどがひきつり嗚咽もままならない。
ズズ、ズン。ズズ、ズン。
尻尾を引きずり、ガラガラと地面を砕きながら、悪夢の足音が近寄って来る。
来た。奴がもう来てしまった。たった十秒足を止めただけで絶望が心臓をつかんだ。動かなかった体が恐怖で反射的に動き、絶望を仰ぎ見る。
大きい。
恐怖や、その異様さ、絶望感によって、今まで見たどんなものよりも大きく見えてしまう。
なにより、そこに唯在るだけで全身をつかまれているような圧力を感じる。
異形が鋭い牙をギチギチと音を立てながら少年に顔を近づける。
心が凍りついてしまう。これからすぐの自分を、絶対不可避の未来を幻視しそれを受け入れてしまう。
このような理不尽な暴力を前に、まわりには誰もおらず自分もすでに力尽きる一歩手前に、諦めが心を占める。
――誰も助けてくれない。
――助け? 誰も助けてくれない?
ぼやけていた視界に、異形を見上げたその隙間に、空の青が映えた。
――あぁ、嗚呼!!
どうして忘れていたのだろうか。どうして忘れることが出来たのだろうか!
凍り付いていた心が解けていく。絶望に支配されていた心の奥に、小さく頼りないが、それでも力強く輝く希望が息を吹き返す。
「たスっ、助けて、っ、助けてっ!!」
たとえ満身創痍であろうとも、かすれていようとも、その声は確かに届いた。
少年が力を振り絞ったその時、異形が視界から消え去った。
耳をつんざく音が聞こえ思わず目を閉じ、身を縮ませる。
『君の勇気が、聞こえた』
優しく響く声にそっと目を開けると、そこに在るのは青。
誰よりも強く、誰よりもたくましい青。
その体は機械であった。四肢を持つ金属の巨人。金属の光沢を持ちながらも、しかし少年にはその輝きは暖かく見えた。
巨人は身を起こすと、少年に振り返り語りかける。
『あとは私たちに任せてくれ』
「遅くなってごめんね、もう大丈夫だよ。ありがとう、君が最後まであきらめなかったから、負けないでいてくれたから間に合った」
いつのまにか隣に寄り添っていた青年が、優しく抱きおこす。
固まっていた体が動く。そこに在るとびきりの勇気に体が活力を取り戻していく。
「僕の名前は結城龍斗。君を助けに来たんだ。君の名前は?」
「天海……、天海大地です!」
「大地君か、さぁ早く帰ってお母さんに無事なところを見せてあげよう」
龍斗がそう語りかけると通信機へ向かって救助要請をした。
救助用ドローンが大地を確保し飛び去っていく。救護カーゴから身を乗り出し大地は力いっぱい叫ぶ。
「ありがとうー! 絶対勝ってください! 僕も応援してます!」
大地の精いっぱいのあふれる気持ちが龍斗へ伝わり、その輝きをさらに強める。
「この輝きは……、そうか、そうなんだねっ……!」
大地の勇気が自分に宿るのを感じ、場違いな笑顔を浮かべる。
『龍斗、これ以上街を破壊させてはいけない』
「分かったよガーディアス、ブレイブフィールド展開! 掌握完了」
青年の体から緑の光が溢れ出し、この街を包み込む。これ以上破壊を生み出させないため通常とは違う位相のフィールドが形成される。
さらにフィールド内の敵正反応を捜査する。
「通常の2倍以上のエネルギーだ、今回のエースはあいつらしい。ステルスに特化した個体、ISP-09と呼称登録。フィールド出力を高めないと反応が出なかったみたい」
少し悔しそうに龍斗はガーディアスへ伝える。
「最後の一体だよ、出し惜しみはもう無しだ! 合体だっ、ガーディアス!」
『了解した、龍斗!』
「ブレイブチャージ! ガーディアス!」
龍斗の輝きがガーディアスに伝わり、その叫びに応える。
ガーディアスから三つの光の道が空へのび、その先から複合戦闘機、武装新幹線、ドリル戦車が呼び出される。
その三機がガーディアスを中心にフォーメーションを組む。
ガーディアスを中心に、戦闘機が胸部と肩部に。新幹線が脚部に。戦車が左右に分かれ腕部へ合体。
ガーディアスの新たなる姿が現れる。
『ガーディアス・ブライト!』
見よ。勇気の輝きを、力強さを、その結晶を!
「ISP-09の戦闘機動を確認、今日のフィールドは一味違うよ! 一気に決めてっ!」
ガーディアスの初撃から持ち直したISP-09が背中スラスターから噴出光を唸らせながら襲いかかる。
しかし、ガーディアスも合体前とは比べ物にならないスピードで、勢いがついた敵を難なく受け止める。
しばらくは力比べとなったが、勢いをすべて殺し相手を両手で浮かして蹴り上げる。
空中へ吹き飛んだ相手へ脚部キャノンを照準し追撃。相手がさらに浮かび上がった所で、両腕を向け腕部ドリルを再展開。ひじ関節から推進力となるエネルギーが溢れ出す。
『ツイン・ドリル・スマッシャー!』
轟ッ!という音をともに両腕が相手へと飛んでいき突き刺さる。ドリルが駆動し装甲を破壊尽くし突き抜ける。
両腕はガーディアスへと戻るが、ドリルが敵の上下に展開し敵を拘束する特殊フィールドを形成する。
『これでっ!』
ガーディアスが胸の前へ腕を掲げると、地が裂け、ガーディアスに迫る程の大きな剣が出現する。
両手で剣を握り、腕を振り上げ大地から剣を抜き放つ。握りを変え、そして再び。
両脚を開きしっかりと大地を踏みしめながら、剣を腰を支点に堂々と構える!!
『アースブレード、解放!』
剣に光が集まり金色に輝く。
輝きが最大まで高まった瞬間、敵へ向かい一直線に飛び立つ。
『フルブライトスラァーッシュ!』
下からすくい上げるように敵を一閃。キィンと澄んだ音があたりに響いた。
一刀両断。金色の一文字、軌跡が空に描かれる。
地面に着地すると同時にISP-09が爆発。
血振りをし、剣に宿っていた輝きが無数の光となって広がる。あたりに優しい光が舞い落ちる。
「周囲の敵性反応完全消失を確認。お疲れ様、ガーディアス」
『任務完了』
位相フィールドが解かれ元の空間に戻ると、舞い落ちた光が触れた部分から火が消え、街が再生していく。
道路の一部が開き、超硬度シェルターに避難していた住人達が出てくる。
「ありがとう!」
「よくやった!」
「かっこいい!」
龍斗たちに向けて感謝の言葉が降り注ぐ。
「地球防衛軍対インスペクター特務部隊隊長、結城龍斗。ただ今任務を完了し帰還いたします。ご声援ありがとうございます」
『同じく勇者部隊隊長ガーディアス、帰還します』
こうしてまた一つ、いやたくさんの命が救われた。
突如地球を襲った外宇宙からの侵略兵器群、通称インスペクター。彼らは不定期に地球へ飛来し無差別に破壊を生み出していく。分かっていることは現代兵器では全く歯が立たないという戦闘力の高さ。
唯一対抗できる手段は勇者と言われている存在だけである。
これはたった一つの小さな輝きをもった少年が、ただ護りたいというその気持ちを絶やさず、大きな輝きへと成長する勇気の物語である。
自分が好きなものを詰め込みました。誰かに刺さってくれたら嬉しいです。