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ロボット戦争  作者: ラーシー
ウィリングロボット
1/2

白衣の男

「なんて法外な!」


 フォーマルスーツを着た30代ほどの男は、目の前にあった木製の机に今まで我慢していた感情を両手いっぱいに込めてぶつけ、その勢いで椅子から立ち上がった。

 椅子がガタッッガタッガタガタガタと暫く音を立てた後、僅かな静寂が辺りを支配するが、その支配権はすぐに別の人物に譲渡された。


「だってよく考えてみてご覧なさい。かつて一世紀以上、誰も成し遂げられなかった偉業を、私が遂にやってのけたのですよ。しかもその発明を、たった島一個分の値段で買えるだなんて、お買い得だとは思いませんか」


 その声の主は白衣を身に纏っていて、顔だけ見たらスーツの男と同じ30代ほどだが、白髪混じりで、若くして紆余曲折を経てきた印象を受ける。彼は、先の男の荒らげた声にも動じず、この商談の勝ちを見越しているようで、口元に微笑を浮かべていた。


「しかし...どう考えても...高すぎる...」


「そうですか。それでしたら、あなたには私の創作品の価値が分からなかったということで、この話はお流れにさせていただきます。」


 その白衣を着た男は机の下に置いてあった黒革の鞄を手に取り、静かに椅子から立ち上がって丁重に椅子をしまい、スーツを着た男に軽く会釈をし、足をドアの方角へ向けた。


「...あと一日」


「えっ?」


 既にドアノブに手を掛けていた白衣の男は、その言葉を待っていたかのように即座にスーツの男の声に反応し、顔を振り向けた。


「あと一日、私に時間を与えてほしい。社に持ち帰って検討したい。」


 さっきまでビジネススマイルのような微笑しか見せなかった白衣の男が、この言葉を契機に初めて人間らしい笑顔を見せ、


「良い返事をお待ちしております。」


と答えた。


 男は一旦手から放したドアノブを改めて握り直し、スーツの男を一人残して部屋から出て行った。スーツの男は一人、苦悶の表情を顔に浮かべて、俯きながら机に置かれた資料をただ眺めていた。彼の思考のキャパシティーはすでに限界量を超えていた。


*******************


 ――厄介な商談を抱えてしまった


 彼の痛切な心の声であった。


 彼の名前は坂口康平。

 産業用、娯楽用を問わず、ロボットの開発から改良、発売まで一手に担う『ロボットカンパニー』に勤続8年目、無遅刻無欠勤のどこにでもいるようなしがない平社員だ。

 そんな凡庸な彼が後にある事件を引き起こすことになるとは誰も思わなかった。

 そして実際に彼がこの物語の中で活躍することは決してない。要は、ちょっと登場回数の多いモブだ。


 しかし彼は勤続8年といえども、要領がいいわけでもないので未だに雑務ばかりを押し付けられる低スペックなモブであった。

 そのため、白衣の男との商談は坂口にとって一世一代の大仕事といっても過言ではなかった。


 ――さて、資料読むか


 その資料の題は『ウィリングロボットの開発及びその運用』というものであった。

 ウィリングロボットとは、意志をもつロボットのことであった。


 ――なんか2045年問題みたいな話だな。そういやあと十年でその問題の年なのか。


 そう、今年は2035年である。


 むかしむかしに電子計算機という概念が生まれ、それからロボットというものが生み出され、ロボットは人間の言葉を覚え、感情を覚え、より人間らしい機械として発展し続けたが、それでもまだ一つだけ足りないものがあった。


 それは『意志』である。


 ロボットは自発的に何かをやることができない。

 例えば部屋にゴミが散らかっていても、指示されなければそれを片付けようとは考えない。

 もし隣で誰かが倒れても、その人を助けようとは思わない。

 もし自分が他人から虐げられても、その人に反撃しようとは微塵も思わない。


 一世紀の時を経て、人類の積年の願いがようやく果たすことができたのだ。その偉大さを、低スペックモブ坂口は知らない。


 ただ、この八年間何も成績を挙げてない坂口にとって、このチャンスを逃すことはもう出世を諦めるということであった。

 ウィリングロボットの使用権が**億円(島一個分)というのは、いくらロボットカンパニーのような上場企業にとっても決断に時間が要する額ではあったが、ハイリスクハイリターンを期待して、ここは賭けに乗ろうと、坂口は決断した。

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