鬼との遭遇
毎週金曜に更新します。
一応ストーリー自体は小説1冊分で収まる話の予定です。
空き時間を見つけてはちょくちょく手直しする予定ですので多少の誤字や文章のあやふやはどうしても意味不明なとき以外はご勘弁で!!!!
放課後の図書室。
一度は誰しも訪れたことがあるだろう。数人の生徒たちが時間つぶしや勉強、本を読むため集まるのだが、大半の者は六時を回る前には帰宅してしまう。
しかし、うちの学校には六時を回っても尚、ぽつんと一人たたずむ生徒がいた。
名は早乙女朱音。
そして今、俺は彼女から電話番号を聞かなくてはならない状況にある。
「あのとき、負けなれば……」
五時間前。
昼休み。
俺、榛葉耕平は今究極の選択とやらを迫られていた。
どちらかがダイヤのエースでどちらかがジョーカー。
究極の選択といってもただのババ抜き。
勝つか負けるかで今後の高校二年の生活が変わる罰ゲームがなければの話だが。
右と左、どっちを取るか?
右? 左?
「はやく選べよ」
いわくつきババ抜きをけしかけてきた中田がニヤニヤしながら俺を見つめる。
右か左。
こういったもので人は隠し事をするとき利き手とは逆の手に何かを隠す傾向が強いらしい。
ならば答えは左一択!
俺は右という迷いを断ち切り、左のカードを中田から力強く引く。
頼む!!!
恐る恐るカードを見ると、妖艶な笑みを浮かべるピエロの姿がそこにはあった。
「俺の勝ちだウリィィィィッッッ」
そして、ピエロ顔負けの気色悪い笑みを浮かべる中田の姿も目の前にあった。
「榛葉罰ゲームな!」
罰ゲーム。
「罰ゲームの内容ってなんだっけ?」
「とぼけるなよ。早乙女朱音の連絡先を絶対に聞けよ」
そして今にいたる。
「連絡先なんて聞けるわけねえだろ」
連絡先を聞くことは別に苦ではない。
しかし、問題は相手だ。
早乙女朱音、彼女は鬼のマドンナと呼ばれている。理由は簡単、彼女は美人だけでは収まりがつかないほど顔が整っていること。そしてもう一つ。
彼女は違反者、つまりあだ名の通り彼女は鬼だ。
早乙女朱音が誰かと会話している姿など誰も見たことがなく、また声も聞いた者はいないという。
鬼のマドンナの声を聞いたら殺されるという七不思議チックな噂も出回っているが、実際は皆近づけないから声を聞いたことがないのだろう。
整った顔立ち、鬼の名を持つこと。
その二つが重なったら例え教師とて話しかけることを躊躇ってしまうだろう。
正直、彼女に話かけたくない。
理由は鬼だからだとか美人だからだとかは関係なしに単純に関わりたくないのだ。
本来ならここでバックれてもきっと問題はないだろう。
普段は仲も良くない中田たちと罰ゲームつきババ抜きをしたのは暇潰し、ただそれだけだからだ。
きっとやつらも同じだろう。現に中田たちは終礼が終わった後にルールを守れと言ってとっとと帰ってしまったのだからだ。
明日俺が無視されたとでも言えば簡単に諦めるだろう。
しかし、ルールを破ることはあまりしたくない。いくら罰ゲームと言えど約束は約束、気の持ちようだが約束を破ると心が重くなる現象が俺は嫌いだった。
「しゃぁない!!!行くか!!」
––––––鬼だって人なんだぞ?
罰ゲームのことに関して大反対していた唯一の親友である草薙春人の言葉を思い出す。
実に正論だ。鬼でも人間、彼女が義務教育中に犯した罪も知らないで彼女をおもちゃのように遊ぶのは不謹慎というか人として終わっていると思う。だけど約束は破りたくないからな。
彼女に連絡先を聞いて、拒否する態度、また無理と一言聞ければすぐに俺は去る。
「今度こそ……行くか」
俺は重い足取りで図書室に入る。
時刻はすでに六時過ぎ、大人数が並んで本を読めるテーブルがいくつも並んでいるが、誰一人としていない。
彼女を除いての話だが。
鬼のマドンナ、早乙女朱音はこんなたくさんのスペースがある中、隅のほうでひっそりと本を読んでいた。
夕暮れの図書室、夕陽でオレンジ色に染まる図書室に孤独な美少女。
それだけでものすごく絵になっていた。
「早乙女……朱音さん…………ですか?」
俺は恐る恐るくちを開いた。
しかし、彼女は返事をするどころかこちらを見向きもしなかった。
うっ……言葉ならまだしも存在すらも無視されることがこんなにも辛いことだとは。
これは早急に用件を伝えて立ち去るしかない。
「早乙女さん、電話番号教えてください!!」
この状況、誰がどう見ても謎だろう。
普通の人に対してもそうだが、相手は鬼のマドンナ。
出会ってまだ数秒しか経っていないのに電話番号を聞く男の姿がそこにはあった。
「…………」
俺の問いかけに彼女が答えることはなかった。 そしてこの張り詰めた空気の中、俺はどうすれば?
後悔の念と共にババ抜きに参加した自分を憎んだ。
帰ろう。
これは帰るしかない。何でもないと伝えてそっと帰ろう。
そう考えていた次の瞬間、彼女は勢いよく立ち上がった。
ガタンッと机と椅子が揺れる音に俺はビクッと一歩後ずさりする。
彼女はカバンを持ち、こちらの方へ近づいてくる。
一歩一歩近づいてくる。
俺はとてつもない緊張感でその場に固まる。
一方彼女は、俺がこの場にいないかのような雰囲気を出し俺の横を通り抜けていった。
「……」
コツコツと彼女の足音が遠ざかっていることを感じる。
何秒経ったのだろう? 彼女の足音が完全に聞こえなくなり、俺はその場にへたりこんだ。
「……くそっ」
早乙女朱音という人間を初めて正面から目の当たりにした恐怖に近い感情。
しかしそれ以上に、俺の存在など初めからなかったかのような態度に腹が経っていた。
「鬼だって……人間…………か。そうだよな、春人」
俺は決めた。
絶対に彼女の連絡先を聞く。
その決意、いや、彼女と出会ったこと自体が俺の人生を大きく変えることになるとはこのとき到底思ってもいなかった。




