表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/9

第9話

────ここはとある神殿。


その神殿にある水晶玉に映っているのは、勇者。

…自分が見逃してやった男が映っている。


国王と謁見しているその姿は、一段階…ほんのわずかではあるが成長していた。

国王との謁見が終わり、勇者が城を後にするところで

映像は終わっている。


???「以上でございます」


アークデーモン「今後もよろしく頼む。御苦労だったな」


労いの言葉をかけると、

フウ…と思わず溜め息が漏れた。


アークデーモン「フン…せっかく拾わせてやった命を無駄にするか…

          人間とは全く愚かな生き物よ」


生まれてこのかた、勇者という存在が脅威となるところを見たことがない

アークデーモンは、勇者という存在に対して興味があった。


酔狂で生かしておいてやった勇者はこの男たった一人だけだが、

どうやらあのファーストコンタクトでのやり取りから

勇者をやめて普通の人間として生きるという選択肢を選ぶには至らなかったらしい。


少なからずプライドだとか、闘志だとか、そういったものが備わっていたのだろうか。

あの、到底脅威になどなり得ない情けない姿の裏に…?


アークデーモン「愚かではあるが、やはり勇者として選ばれた人間は

          興味深い生き物でもあるというのがなんとも…」


脅威となる可能性がある芽は摘むように、という魔王様からの命を

魔王様に仕えて以降100年にわたって忠実に守っては来たものの…

アークデーモンは退屈さを感じていたのだ。


そんな時に現れた、勇者でありながら到底脅威となり得そうもない

とても希有な存在…それが、主人公だった。


ここからどう成長するのか、やはり脅威などにはならずに死ぬのか…

それとも、途中で勇者としての活動を諦めるのか。


観察したいという気持ちはあるが…

やはり魔王様の命を第一に、殺しておくべきだろうか。

だが、今殺してしまえばまた退屈な日々に逆戻り…

それに…魔王様の命は”脅威となる可能性がある芽を摘む”ことだ。


つまり、主人公が脅威となる可能性を孕んでいないのであれば

わざわざ殺す必要もないということになる。


しかし、このまま黙って見ている訳にもいかない。

勇者としてわずかではあるが力を付け始めた以上、

やはり脅威となる可能性は万に一つあるのかもしれない。


アークデーモン「やはり…殺しておくか」




────────




仲間として契約を結ぶ為の書類などに一通り、

サインなどをして提出した俺とエリスは、晴れて正式に仲間になった。


しかし、新たに戦う為の仲間ができたは良いが…

これからどうするべきか。


とにかく、もっと強くならなくちゃ。


主人公「エリス…まずは、この街の周辺の魔物を退治してこよう。

     もっと強い魔物と戦えるように…力をつけるんだ」


エリス「そうね…魔物を倒してゴールドを貯めて

     装備ももっと良い物をそろえなきゃ」


主人公「ああ…そうだな」


サンラーラの町の人たちも、この城下町に隣接する城の管轄下にある。

16歳になった人間は例外なく、各国にある城でそれぞれ儀式を受けて

職業に就くようになっているのだ。


隣町からわざわざ護衛をつけながら来るのは大変ではあるが、

人に職業をあてがうことは特別な修行を受けた王族や、

特別な人間にしかできないことだから仕方ない。


主人公「でも…エリスは魔物と戦うの、怖くないのか?」


エリス「?…うーん……怖くない、って言ったら嘘になるかな」


そりゃそうだよな…俺、何聞いてんだろ。


エリス「魔物と戦うのは怖いけど…私たちみたいな

     魔物と戦えるだけの力がある職業の人が頑張らなくちゃ、

     いつまで経っても魔物はいなくならないんだよね」



主人公「…!」



当たり前のことだけど…怖くても戦わなくちゃいけない。

ある意味、魔物と戦うための力を与えられた人間が持たされた使命。


こんなか弱そうな女の子でも、使命を全うする為に頑張ろうってのに…

”元”勇者になってでも生きていたい…なんて、

嘘でも思うべきじゃなかったかもしれねえ。


…あの時は、そうしなきゃ死んでただろうけど。

それでも…こうしてずっと引きずることもなかったんだよな。

それに、後悔を残したままその辺にいる魔物に

もし殺されでもしたら…永久に後悔したままだ。



たとえ死んだとしても…俺は勇者として死にたい!!



主人公「変なこと聞いてごめんな…」


エリス「いいえ、何も変じゃないと思うよ?

     …大丈夫。怖くても、私頑張るから。」


主人公「ああ…

     俺もエリスに負けないように、頑張るぜ。


     そうと決まりゃ、善は急げだ。

     早速、街の外へ行ってみようぜ。」


エリス「ええ…!」


階下に降りると、俺が最初に声をかけて断られた青年がまだいた。

青年とは一瞬目が合ったが、すぐに向こうから目をそらした。


俺なんか眼中にないってのは分かってるけど…なんだかなぁ。


酒場の店主であるアイーダにも一応挨拶しておく。

アイーダは俺に仲間ができたことを喜んでくれたようだった。



…こうして、俺とエリスは夜も更ける中、街から外へと飛び出した。


その時だった。



一瞬だけ空に光った、何かの光を俺は見逃さなかった。



主人公「…!!」


エリス「主人公…?」



空から、何かが飛んでくる…!!


何だ…?!……あれは…!!


…あれは……まさか!!!



目の前に降り立ったそのまがまがしい姿。

忘れもしねえ…こいつは…!!!


主人公「アークデーモン…!!!」


エリス「あ、アークデーモン…!?」


主人公「そう…奴はアークデーモン…

     魔王直属の部下だ…!!」


エリス「ええっ…!?」


驚きを隠せないエリス。

そりゃそうだ。まさか魔王の直属の手下が、

自らこんな辺境の町にやってきたってんだから…。



アークデーモン「勇者よ、貴様せっかく拾わせてやった命を

          どうやら無駄にしたいらしいな…!!

          着々と力をつけようという魂胆のようだが、

          貴様の行動は全て筒抜けだ」


主人公「…なんだって!?」


エリス「…!?」


行動が筒抜け…ということは、

常に監視されていたとでもいうのか…!?


アークデーモン「フフ…この私に見抜けぬことなどないわ…!!

        あのような情けない姿を晒してまで、

        死にたくないという想いが感じられたからこその

        私からの慈悲だったというのに…それを無碍にするとは」


くっ…!!

ま…また、言われっぱなしで…

言われっぱなしで…たまるか!!


主人公「う、うるせえよ…!」


アークデーモン「なんだと…?」


主人公「うるせえって言ったんだよ!!」


アークデーモン「ふふふ…」


はははははは、と高笑いをするアークデーモン。


アークデーモン「そこの貧弱な小娘を一人仲間に得た為に調子に乗ったか?

          それとも、気が狂ったのか?

          どちらにせよ頭の良い選択とは思えん。」


エリス「…!」


主人公「ああ…気が狂ったとでも、何とでも言ってくれよ」


アークデーモン「ほう…」


主人公「この前は情けない姿を見せちまったが…

  俺は一瞬たりとも、その時味わった屈辱と苦痛を忘れた時はなかった!

     てめえにバカにされっぱなしで、

     ”元”勇者なんて肩書きになるぐらいなら!

     今、ここで俺たちを殺そうってんなら…俺は戦う!!

     死んだって構うもんかよ!!」


エリス「…ええ!!」


アークデーモン「…貴様は他の勇者どもとは毛色が違うと、

        少々期待していたのだが…よかろう。

所詮は貴様も、他の勇者同様に

        ただの退屈で、愚かな存在であったということか…。

          

       やはり生かしておいてやったことは間違っていたらしい。

       そこの小娘ともども、今ここで灰にしてくれるわ!!!」



構えをとるアークデーモン。



反論してみたはいいけど…今の俺たちに手立てはねえ!!



主人公「エリス…すまねえ。

     仲間になったばかりで、これから一歩踏み出そうってところで…!」


エリス「いいえ…気になんてしないで。

     何もできずに死ぬなんて悔しいけど…

     それは主人公も同じだものね」


俺の仲間になったばかりに…なんてことになったら死んでも死にきれやしねえ。

魔法を放ってくるのか、それとも肉弾戦を仕掛けてくるのかは分からねえが…

ヤツが動いた瞬間エリスを横に突き飛ばせば、

少なくとも俺と一緒に一瞬で死ぬ…ってことはねえはずだ。


…それに、ヤツの狙いは俺だけだし。

俺を殺した後に残ったエリスをわざわざ殺すかどうか、ってのは賭けだが…


アークデーモン「二人仲良く、燃え尽きるが良い!!」



”炎”(ブレイズ)!!!



…来た!!!

エリス、すまねえ!!


俺はアークデーモンの手から炎が巻き起こる瞬間、エリスを横に突き飛ばした。


エリス「…!?主人公!!?」


主人公「ヘヘ…悪ぃな…エリス。やっぱり巻き添えにする訳には、いかねえぜ!」


エリスは、少し離れたところに崩れ落ちた。



…死ぬ!!



──”水柱”(ウォーター・ピラー)!!!


…?!


それは、俺が死を覚悟した瞬間だった。


街の方から聞こえてきた声。そして、同時に巻き起こる…水の魔法!

アークデーモンの放った魔法が俺とエリスに届くすんでのところで、

水の魔法によって炎が中和され…アークデーモンの放った炎をかき消した。


主人公「…!?」

エリス「…?」


アークデーモン「…なに!?」


「間に合ったか…!!」


俺とエリスが声のした方を振り返ると、そこに立っていたのは…


主人公「あ、あんたは!」


酒場で俺が声をかけて仲間になることを断られた、魔法使いの青年だった!!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ