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第8話

アイーダの店の二階。そこには、仲間を募集する為の

いわゆる募集要項が書かれた張り紙が壁一面に貼りつけられていた。


すげえな…こんなに、仲間を募集してる人がいるのかよ…。


張り紙はどうやら、募集要項にある条件によって

いくつかのグループに分けられているようだ。


募集要項の張り紙がある壁に向かって左側から順に、

壁の右側に進むにつれて募集要項に書いてある条件がより高くなっている。

レベル35以上の戦士求む!…とか一体どれだけ魔物と戦えばこの条件を満たせるのやら。

そんだけ鍛えりゃ、あのアークデーモンや魔王ってやつも倒せるんじゃないのか?


対して、左側の方に貼ってある張り紙に書いてある条件には

そういういわゆる”相手に求める条件”は書かれておらず、

募集している募集主のことが書いてある。


張り紙のある壁と、管理人らしき人が座っている机があるだけ、という

登録所はいたってシンプルな構造になっていた。

俺は早速、この登録所の管理人らしき人に話しかけてみることにする。


主人公「すみません」


管理人「はい。いかがなさいました?」


主人公「新しく仲間になってくれる人を探しているんですけど」


管理人「仲間を探しているんですね。

      新しく募集をかけますか?それとも、既出の募集に対して応募します?」


主人公「これ、応募する場合ってどんな感じになるんですか?」


管理人「どんな感じ、といいますと?」


主人公「例えばこの一番左端の張り紙の募集に応募するとして、

      どうやって募集主と仲間になるのかが分からなくて」


管理人「…そうなると、まず今ここで私があなた様の応募を承ります。

      こちらの書類に名前、職業、レベルを記入していただいて、

      この署名の欄に署名をしていただくことで応募は完了となります」


主人公「…その後は?」


管理人「その後は、仲間を募集している募集主の方が

      こちらにお見えになった時に、あなた様から応募があった旨を伝えるとともに

      あなた様に記入いただいた書類をお渡しして、書類に目を通していただいた上で

      募集主があなた様を仲間にするのに納得した場合には

      約束の日時を決め、今度はあなた様がお見えになった時に

      募集主が定めた約束の日時をあなた様にお伝えし、

      最終的に募集主とあなた様がご対面してようやく仲間として契約が結ばれます」


自分で思っていたよりもはるかに面倒くさそうだ。


主人公「つまり応募をする側になった場合は、

      条件が合わなければいつまでも仲間が増えないってこと?」


管理人「つまりはそういうことになります。ですが、慎重に仲間を探すのであれば

      こういったシステムはまあそれなりに有効と言って差し支えないと自負しております」


主人公「慎重に…?ですか?」


管理人「ええ…。今は他に冒険者の方もいないので、ここだけの話、ですが…

      仲間を募集する人、仲間の募集に応募する人の中には

      稀に魔物と戦う為”以外”の目的で仲間を探している人間もいます」


主人公「え…?」


管理人「魔物と戦えるだけの力を、悪用する人間がいるんですよ」


主人公「…!!」


確かに…。いくら魔物と戦うための職業についた人間とは言っても、

魔物と戦えるだけの力…逆に考えれば、それ以外に使おうと思えば

いくらでも悪用できる力だ。そんな力を持った人間の全てが、

本来の使い道である魔物と戦う為だけにその力を使うとは限らない。


管理人「仲間を募集する張り紙に応募したら、

      犯罪の片棒をかつがされそうになった…

      そんな話をしに来る人もいました」


主人公「そうなんですか…」


そうなると、数多ある仲間募集に迂闊に応募するのは

ある意味危険かもしれない。

募集主の情報ってのも募集主の方で書類には好き勝手書けるんだろうし。

しかもこっちが応募したって募集主が俺を気に入らなければ

当然仲間にはなってくれないし、時間もかかるしで

応募する場合のメリットは何もなさそうだ。


最初から仲間を探しているのが分かってる人に

こっちから募集した方が手っ取り早いかも…と思っていたんだけど、

やっぱり自分で仲間の募集をかけるしかないか。


だけど仲間を募集するとして、普通の募集主のように

悠長に応募を待っているなんて余裕はねえ。

俺がまだ勇者としての活動を諦めていねえと、

あのアークデーモンの野郎に気付かれたら今の俺は確実に殺されちまう。


一刻も早く、一緒に戦ってくれる仲間がほしいんだ。


募集をかけながらこの登録所で待とう。

俺が出した張り紙に興味を示してくれる人が現れたら、

その時声をかけりゃ良い。


主人公「管理人さん」


管理人「はい」


主人公「仲間の募集をかけたいんですけど」


管理人「かしこまりました。それではこちらの書類にまずは目を通していただいて」


俺は仲間を募集する上での、募集する側の注意事項が書かれた書類に目を通す。

仲間同士の財産は共有の財産になるとか、

道具の入った袋を一人だけに持たせることはできない

(いわゆる荷物持ちの為に仲間を作ることはできない)とか、

魔物と戦うための精霊の加護を受けた職業の人間は、

精霊たちの互いが及ぼす影響が強まりすぎて、

逆に弱まってしまう精霊の力が出てしまう

(例えば風の精霊の加護を受けていない

火の精霊の加護を受けた者が集まりすぎると、

風の精霊の加護を受けている者の力が弱まってしまうらしい)

などの悪影響が出ないギリギリの範囲である4人までしかパーティを組めない、

とか色々なことが記載してあった。


俺はその全てに一応目を通したうえで、レベル2の勇者として

仲間の募集をかけるのだった…


俺の仲間募集の張り紙は、でき上がり次第すぐさま掲示された。

俺はというと、仲間を探してこの登録所にやってくる冒険者たちを待つことにする。


しばらくすると、ちらほらと冒険者がやってくるようになった。


…しかし、なかなか俺の仲間募集をじっくりと見るような冒険者は現れない。

レベル2の勇者、なんて奴の仲間にはなりたくねえか…。


刻一刻と、時間だけが無情に過ぎていく中…

酒場の閉店の時間が近付いてきていた。


建物が一緒なので、この登録所の開いている時間は当然

酒場が開いている時に限られている。


今日はダメか…。


俺がそう思い始めた、その時だった。



…!!


俺が出した募集を見ている、一人の少女がいる。

先ほどから掲示板の左側…つまり俺の募集がある辺りを

じっくりと眺めているのは分かってはいたが…

俺の出した募集を、特にじっくり見ているようだった。


そこで俺はすかさず、その少女の状態を確認する。


…レベル1の…職業は僧侶。

一般的には、傷を癒したり毒を解毒したりといった

仲間を回復することがメインの魔法を扱うエキスパート、

と言われている職業だ。


この少女はレベル1ではあるが、回復の魔法”ヒール”を使えるようだ。


俺が状態を確認していることに気付いたのか、

その少女もまた俺の状態を確認すると、こちらに歩み寄ってくる。



少女「はじめまして、勇者さん」


主人公「は、初めまして!」



ゆ、勇者…?

と一瞬思ったが、俺は一応職業的には勇者なのだった。


少女「仲間を募集しているというのは本当ですか?」


主人公「そう…たった一人で魔物たちと戦うのは無理だと

     痛感したところでさ…。君も仲間を探してるのかい?」


歳の頃は俺とさほど変わらないように見える。

最近僧侶になったばかりなのだろうか?


少女「ええ…。同じくらいのレベルの仲間を探していたんです。

    もしよかったら、勇者さんのお仲間にしていただけないでしょうか?」


主人公「え…?」


まさか向こうから、仲間にしてほしいという申し出があるだなんて

思ってもみなかった俺は思わず面食らったが、

これはむしろトントン拍子にことが運んでラッキーだ。


主人公「なかなか一緒に戦ってくれる仲間が見つからなかったところだから

     是非とも仲間になってほしいけど…俺は前もって言っておくと弱い。

     それでもいいかい?」


少女「大丈夫ですよ…私もつい先日隣町のサンラーラの町から

    旅に出たばかりで、弱いですし。

    だからこそ、これから一緒に強くなっていけるような仲間が

    私には必要なんです」


主人公「サンラーラの町から来たのか…

     そんなに遠くはないけどここまで来るのは

     大変そうだな」


少女「薬草を買えるだけ買って、

     魔物からはひたすら逃げてきました」


逃げ足だけは速いんです、とつけ加えて微笑む少女はちょっとだけお茶目だ。


主人公「ハハ…俺は主人公。

     あんた、名前はなんていうんだい?」


少女「…私は、エリス。エリス・フラウディール」


主人公「エリスか…。よし。エリス、今日からよろしくたのむよ」


エリス「主人公さん…私を、仲間にしてもらえるんですね。」


主人公「もちろんさ。むしろ大歓迎だよ。

     俺のことも気軽に主人公って呼んでくれていいから」


エリス「はい…!」



…かくして、俺は僧侶のエリスを仲間に加えることになったのだった。

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