第6話
街に戻った俺は、そそくさと物陰に隠れながら道具屋を目指す。
母親や妹に見つかって、旅に出て早々戻ってきましたでは
いくらなんでもカッコ付かねえもんな…。
俺は最初から持っていたゴールドと、
ついさっき手に入れたゴールドを使い…
道具の店で薬草を1つ買うのだった。
とりあえずスライムやでっかいカラスぐらいは
無傷に近いくらいの怪我でやっつけられるようにならねえと…
あのアークデーモンの野郎には到底かないっこねえ。
いや…まてよ…。
そもそも俺一人で魔物たちに立ち向かおうってのが間違ってるのかも。
これから一体どうすりゃいいか、国王様に相談してみるか…。
極力人のいないところを通るようにしながら、俺は城へと向かった。
国王様は、快く俺と再び謁見してくれた。
国王「戻ったか、勇者主人公よ。そなたが次のレベルになるには…
29の経験値が必要じゃ。」
主人公「えっ?!見ただけで分かるんですか?」
国王「ワシもただ玉座にこうして座っておる訳ではない。
魔物を討ち倒す力などは到底無いが、国を治めることと
今までに職業を授けてきた者たちの成長を
精霊の声から知ることぐらいはできる。」
主人公「精霊の声…」
国王「代々、国を治める者が最低限身につけてきた能力じゃ。
魔物との戦いになれば、何の役にも立てんがな」
ははは、と国王は笑う。
主人公「国王様…」
国王「うむ。なんじゃ」
主人公「経験値ってのはなんです?」
国王「うむ…経験値というのはな、魔物を打ち倒すことによって
解放された闇の力を、そなたを加護する精霊たちが
正のパワーへと変換することによってそなたに送られ、
そなたがその身に得られる力のことじゃ。
そしてその力がある程度高まった時に初めて、
レベルアップという現象を通じてそなたの身に反映される。」
主人公「つまり…?」
国王「まぁ簡単に言えば魔物を倒せば倒すだけ、
精霊たちが力をそなたにくれるという訳じゃ。」
主人公「そう言われると分かりやすいですけど…
精霊たちは直接俺に力をくれる訳ではないんですね」
国王「そなたが魔物と戦えるだけの力を得、
さらにはその力を高めることのできるだけの
いわば”器”をそなたにもたらしてくれている…
それだけで精霊たちはかなりの力を使っておる」
精霊たちは魔物を直接退治することもできなければ、
魔物に宿っている闇の力をその身から抜き出すこともできない。
俺が魔物の生命力を奪い、魔物が死に、魔物の姿が
闇の力と魔物のベースとなったゴールドに別れたその時、
初めて精霊はその自然体となった闇の力を正の力へと
変換できるのだと、国王は説明してくれた。
つまり、レベルアップとは魔物を倒すことで
精霊たちから力をもらっていくことで初めて起こる現象なのだ。
ただ単に筋力トレーニングとかをしていれば
どんどん強くなっていくという訳ではないらしい。
生命力、なんてのは鍛えようがねえもんな…。
主人公「ちなみに、何故精霊たちは解放された闇の力を正の力に変換して…
なんていう面倒くさいことをしてまで俺たちに力をくれるんです?」
国王「それはな…魔物たちが身に纏っておる闇の魔力というものは
火、水、土、風の精霊たちにとって脅威なんじゃ」
主人公「脅威…?」
国王「うむ。たとえば、黒い絵の具に他の色を混ぜても、
その黒い色を緑や、赤などに変えることはできんじゃろう?」
それと似たようなもので、魔物が増えるだけ増えてこの世界が
闇の力を持った魔物で溢れてしまうと、
いずれ精霊たちの力は闇の力によって
少しずつ闇の力に染まっていってしまう…ということらしい。
つまりは精霊たちも、魔物と敵対しているんだな…。
あ…そういえば経験値の話をしに来たわけじゃない。
主人公「そういえば国王様」
国王「うむ。なんじゃ」
主人公「俺一人で初めて魔物と戦ってきたのですが…
一人で魔物たちに立ち向かい続けるのは
とてもじゃないけど無理だと感じました」
国王「うむ。むしろそなたは、よくぞ一人で魔物と戦ったな」
主人公「えっ」
国王「やはり勇者として主人公がえらばれたのは、
間違いではなかったということの証であろう」
主人公「いやいや、国王様のその口ぶりだと
普通は一人では戦わないみたいな感じに聞こえるんですが」
国王「…あれ?」
主人公「…」
国王「う、うむ。この城の城下町には、
既に職業を得て魔物と戦ったりしている者たちが立ち寄る
アイーダという女性の経営している酒場がある。
そこへ行って、仲間を募ってみるがよいと思うぞ」
主人公「何で最初にそれ言ってくれなかったんですか…」
国王「いや…いつもなら職業に就く者には全員に説明してきたんじゃが、
あまりにもそなたが学問所で勉強してきておらんかったもんで
すっかり仲間を集めることについての説明を忘れておった…」
主人公「うっ…」
国王「…すまん」
主人公「い、いえ…俺の方こそ…かさねがさねすみません…」
国王「いや、いいのじゃ。むしろワシの方こそすまなかった。」
主人公「顔をあげて下さい国王様。大臣さんや衛兵さんに
俺なんかしたと思われちゃう」
俺たちの話が聴こえているのかいないのか…
少し離れたところに立っている、国王様の側近である大臣は
こちらを見て怪訝な表情を浮かべていた。
国王「う、うむ。」
主人公「お忙しい中、ありがとうございました。」
国王「うむ。また何かあれば、いつでも来るのじゃぞ。
では、頑張ってまいれ、勇者主人公よ!」
俺は城を後にした。