第3話
翌日。
結局一睡もできなかった俺は、眠い目を擦りながら階下へ降りていく。
主人公「おはよう」
母親「おはよう、主人公」
妹「おはよう、お兄ちゃん!」
昨夜の出来事など知らない俺の母親や妹…
特に、俺が勇者として選ばれたことを心底喜んでくれた母親には
とてもじゃないけど顔向けできなかった。
母親「どうしたの、主人公」
母親と目を合わせられない俺を心配したのか、声をかけてくれる母親。
主人公「い、いや…なんでもねえよ」
妹「お母さん、きっとお兄ちゃん旅に出てお母さんの顔見れなくなるのが辛いんだよ!」
主人公「そ、そんなんじゃねえよ」
母親「主人公…。」
主人公「か、勘違いすんなよ!ベ、別に寂しくなんかねえし…
かえって清々するぐらいだぜ!」
妹「照れなくたっていいのに~」
主人公「シェイラ…いい加減にしろ」
妹「お兄ちゃんが怒った!」
妹は二階の自分の部屋へと逃げて行った。
…もしかしたら、寂しいのは妹の…シェイラの方なのかもしれない。
俺は何となく、妹の言動の意味を理解していた。
母親「ふふ」
俺と妹がいつものようにやり取りをしているのを見て、
母親は安心したのか、優しく微笑んでいる。
…圧倒的な力を持った敵を前に俺がとった行動。
それは、勇敢なんてもんとは到底程遠いものだった。
今の俺には勇者どころか、臆病な腰ぬけ野郎っていうレッテルが相応しいぐらいだ。
実際、そうだった。
だけど、このままで…あのアークデーモンの野郎に言われた通り
大人しくしてなんていられっかよ!!
何もできずに死んじまうのもごめんだけど…
ただの腰ぬけのまま…”元”勇者になる、なんてのはもっとごめんだ。
レベルアップとやらを繰り返して、いつかきっとあいつを…
魔王の打倒だなんて大それたことは言わねえ。
まずはあのアークデーモンの野郎をぶっ倒すんだ!!
母親「主人公…。辛くなったら、いつでも帰ってくるんだよ」
優しい言葉をかけてくれる母親に面と向かって、目を合わせて俺は言う。
主人公「ありがとう…頑張るよ、俺。いつかきっと立派な勇者になって、
魔王ってのを倒してくるから!」
強い決意を胸に、俺はこの街を旅立つことにした。