第2話
門のところで待っていてくれた母親に、
俺は勇者として精霊の加護を受けたらしいということを伝える。
すると、母親は涙目になりながら俺の就職を喜んでくれた。
勇者として選ばれる人間の数というのは、そう多くないらしい。
俺がまだ幼い頃、父親が行方不明になって以来女手一つで
俺をここまで育ててくれた母親が喜んでくれたことは、
俺にとっても嬉しいことだった。
しかし…この母親の喜びをぬかよろこびに変える訳にはいかねえ。
いわゆる立派な勇者ってのになるには、どうしたらいいんだ。
俺は答えの出ない疑問に頭を悩ませつつ、
俺の誕生の日、そして同時に旅立ちの日である今日を祝うため
家族が用意してくれたささやかな食事を味わっていた。
…その夜。
草木も眠る丑三つ時…。街の結界を人知れず破る侵入者の姿があった。
その侵入者はまっすぐ主人公の家の二階…。主人公の部屋へとやってくる。
ただならぬ殺気に、
もともと今日はなかなか寝つけずにいた主人公もさすがに気付く。
主人公「…誰だ…?!」
???「気付いたか…」
主人公「な…なんだ!?ま、魔物…!?」
???「そう…魔王様の命により、今日16歳の誕生の日を迎えた
勇者という職業の人間を殺して回っているのだ」
主人公「…!?」
???「お前の職業はなんだ?」
主人公「お、お、お俺は…」
???「勇者…?」
主人公「ちちち違います、俺はゆ、勇者なんかじゃ…」
???「そうか」
主人公「そ、そう!俺はただの農民!
何の加護もなけりゃたたかう力もないんです!」
???「…」
全てを見透かしているかのような眼光。
主人公「ゆ、勇者を殺そうってんなら他をあたってくださいよ!
俺は全然勇敢でもなけりゃ、今ここで死ぬなんてまっぴらごめんだ!」
???「フッ…ハハハ…!!」
…!?
???「当てもなくお前の所に来た訳ではない。お前が勇者として選ばれたことは
もちろん知っている。そんな嘘で騙されてやるこの私ではないが、良いだろう。
お前は今まで勇者として精霊の加護を受けた者たちとは違うようだ。
私がこれまで殺してきた勇者は皆、力量もわきまえずにこの私に立ち向かってきたが
お前はとんだ腰ぬけ…。到底私たちの脅威になるとは思えん。」
…くっ…!!
???「私の名はアークデーモン。
いずれ相対する可能性もないが、おかしな気は起こさぬことだ。
今後は勇者という職業を捨て、農民として平穏に生きるのだな。」
主人公「は、はい!分かりました!!」
アークデーモン「せっかくこの私が見逃してやるのだ…
その命無駄にするなよ。さらばだ、元勇者。」
そう言い残すと、アークデーモンと名乗った魔物は
背中の大きな羽根をはばたかせ飛び去って行った。
…なんだったんだ…。ちくしょう…!!
一目見た瞬間に分かるほどの、圧倒的な力量差。
あの場で立ち向かおうものなら、今頃まちがいなく死んでいただろう。
あんな奴らを相手に、これから俺は戦わなくちゃいけないのか…。
主人公「無茶ってもんだろ…そりゃあ……」
でも…あそこまで言われて、引き下がれるかよ…!
俺は溜息をつきながら、窓の外を見つめる。
今夜はもう、眠れそうにないな…。